1963年、フランクフルト・モーターショーで華々しくデビューしたポルシェ911(発表当初は901)は、60年以上にわたってモデルチェンジを繰り返しながらも、変わらない哲学とともに進化し続けてきました。
2025年8月現在、世界的に新車需給のバランスが崩れており、最新の992.2型は、モデルによってはすでに通常購入のハードルが非常に上がってしまっているという難しい問題に直面しています。新車の乗り出し価格で最低でも1,900万円をゆうに越えるスポーツカーの注文に、長蛇の列ができるという稀有な状況なのです。
果たして、911の何がそこまで人々を熱狂させるのでしょうか?

飛躍的に高まる保安・環境基準へ適合するために、生き馬の目を抜くようなスピードで進む技術革新の土俵で、リアエンジン・リアドライブという伝統的な構造を維持し続けるその姿勢は、「反逆的」とさえ言えるものです。
しかし、だからこそ見えてくる価値があります。
EV化を推進するポルシェブランドの中に置いて、60年を超える歴史を持ちながらも、今なお最前線に立ち続ける911。本稿では、その最新型である992.2のカレラのレビューと併せて、911の背負ってきた宿星とその進化をあらためて探ります。
ただ、最初にお伝えしておきたいのは911の全てをここで語り尽くすことなどは到底できないということです。毎日ポルシェと触れ合う我々販売ディーラーにとっても、911という存在はとてつもなく大きく、そして深く、計り知れない偉大なる象徴なのです。

「変わらない」という挑戦
変化が善とされるこの時代において、戦略的に「変わらないこと」を選ぶとき、計り知れないほどの覚悟が必要です。
リアエンジン・リアドライブという構造を守り続けてきたことは、単なる伝統のためではありません。それは、911が「スポーツカーとはこうあるべきだ」というポルシェブランドとしての答えを、一貫して体現してきたことの証なのです。

356から引き継いだRRという構造は、根本的にリアヘビーであり、フロントタイヤにかかる荷重が少ないことから、スピンを誘発する非常に難しい運転特性を持っていました。
そのような弱点を克服していくために、ポルシェは911のサスペンション、ステアリング、ブレーキ、シャシー…あらゆるディテールを、気が遠くなるほど緻密に改良してきました。
そう、見た目も構造も「911であり続けること」こそが、このクルマの最大の核だったのです。それは、「変わらない」という、終わりなき挑戦でもあります。
フロントエンジンと共闘の末に
実は、現在から50年以上も前に創業一族から経営が刷新されたポルシェ社が最初に着手したのは、新設計のFRスポーツカーモデルの製造計画だったという歴史があります。
フロントに水冷エンジンを積んでリアを駆動させるという、911とは構造のまったく異なる924や928といった、新世代のスポーツカーモデルたちです。

70〜90年代を代表する日本製のスポーツカーたちも、こぞってこのポルシェのFRモデルたちをベンチマークにして開発したほど、完璧なまでに優れた走りの完成度を誇っていました。
しかし、1995年を最後に、ポルシェの2ドアFRスポーツモデルの生産はすべて終了し、結果的に残ったのは911たった1モデルだけでした。911と比べて圧倒的に操縦性に優れ、扱いやすく、最新の水冷エンジンを積んだFRスポーツモデルが消え、旧世代の空冷エンジンを積んだRRの911だけがモデル存続したのです。
このFRモデルとの共闘の末に911だけが存命した事実は、ポルシェ自身がリアエンジン・リアドライブという構造を切り離せない宿星として、覚悟を持って受け入れた出来事だったのは間違いありません。
F.A.ポルシェが生み出した
静謐な造形美
ポルシェ911は、そもそも華やかさを狙ったモデルではありません。しかし、一目で911だとわかるそのフォルムには、圧倒的な個性と説得力があります。
それは初代からの純度を一切損なうことなく、992の後期型である最新の911カレラにも体現されています。

短いフロントオーバーハング、リアへ向かって滑らかに落ちるフライライン、心臓部を内包するボリューミーで流麗なバックシャンなど、どの角度から見ても「ただ美しい」と感じさせるこのシルエットは、バウハウスの思想に基づく「機能が形を決める」というデザイン哲学のもとに生み出されています。

F.A.ポルシェが描いたこのプロポーションの原型は、誕生した瞬間からすでに完成されていたとも言われています。装飾的な要素は最小限にとどめられ、基本形状はすべて走行性能と実用性に根ざしたものです。
このミニマルな「機能美」こそが、玉石混交のあらゆる工業製品の中において、911が異彩を放つ最大の理由です。

完成度は至高の領域へ
最新の911カレラ
最新モデル992.2型の911カレラは、今回のマイナーチェンジによって、「牙を無くし大人しくなった」「ソリッド感が無くなった」などの市場評価があるようなので、あらためて街中および高速道路で試乗してみました。
実際に乗ってみると、ものすごい洗練されたスポーツカーに仕上げられていたことに非常に驚きました。
エンジンフィーリングやトランスミッション、シャーシ、サウンド、一体感など、あらゆる側面が洗練され、荒さを感じる部分が消え、細部にまで飽くなき追求を行い、徹底した拘りを持って改良された印象です。

確かにコアなエンスージアスト目線で見れば、プリミティブな要素を感じづらくなったという側面も理解できました。しかし現在のポルシェは、TやGTS、GT3、そしてRSなどまでグレードが拡張されているので、より生々しいメカニカルフィーリングは、充分以上にそれらのグレードで味わうことができます。
そのため、ベースモデルの911カレラにずっと必要とされていたのは、不快な振動やギクシャク感、不要な音などが丁寧に調教された、より自然に乗って楽しめる911という、洗練されたプレミアムGTカーの要素だったとのかと、あらためて気付かされた感覚です。
そのGT的要素が992.1型の高いポテンシャルと化学反応を起こし、無二の完成度を誇る、究極的に洗練された大人のスポーツカーに仕上がっていました。
クリアに聞こえる回転サウンド
試乗時に特に印象的だったのは、中〜高回転域でのエンジンサウンドです。
近年、音量拡大方向にあったマフラーの排気音自体が比較的マイルドに抑えられたことで、エンジンが高回転で唸る「ギュィィィーーーン」という、様々な音が一直線に調和していくような純粋な回転サウンドが背中越しに伝わり、まるで997型くらいまでの911を思い出させたことです。
当然これはオプションで装着するスポーツエグゾーストの機能をOFFにした場合なので、それ自体はお好みでON/OFFを切り替えて楽しんでみてはいかがでしょうか。

デジタルとアナログが
融合する無二の世界観
インテリアに関しては、前モデルで唯一アナログメーターとして残されていたタコメーターがついにデジタル化され、すべてがフル液晶表示となりました。
最新のマカンエレクトリックでも強く感じましたが、このデジタルとアナログスイッチ、レザーの高い質感などが完璧に調和する世界観を持つインテリアの演出は、本当に見事です。

自分らしくアレンジする方法も
もし、「アナログ感がもっと欲しい!」という方には、自ら機械式の計器を左腕にはめて持ち込むというアレンジもありではないでしょうか。写真の腕時計は、ポルシェデザイン「Chronograph 1 – 1972 Limited Edition」ですが、やはり最新の911の世界観にも完全にマッチしていますね。
最新のポルシェデザインのタイムピースは、現在EBIグループの各新車拠点でも実機が展示されているので、ぜひご覧になってみてください。

進化の過程に宿る
ポルシェ拘りの哲学
911は60年以上に渡りモデルチェンジ・マイナーチェンジを繰り返してきましたが、いつも「大きく変わらない」という印象を与えます。今回の992.2型にもまさしくそれが当てはまります。
しかしその裏側では、マイナーチェンジにもかかわらず、サスペンションアームの取り付け位置を微妙に変えるなど、通常メーカーでは避けられるような、技術力と多大なコストを要する変更が、脈々と行われてきたのです。

これらは通常は気付きづらい「地味な変更」かもしれません。けれど、それこそがポルシェであり、911が長い間創り上げてきた哲学そのものなのです。
見た目を派手に変えず、中身を確実に磨き続ける。その姿勢にこそ、ポルシェの矜持が表れていることを、あらためて強く感じました。
伝統と革新の体現者
ポルシェが磨き上げてきた911は、世界中の自動車製造のベンチマークであり、世界最高峰のブランドであるポルシェの“現在進行形の答え”の一つなのです。そして、ポルシェの正規ディーラーグループであるEBIグループは、その911を通じて、より多くのお客様へ豊かなポルシェライフを提案したいと考えています。

マカンエレクトリックやタイカンといった次世代のモデルと、ブランドの歴史を築いてきた911が共存している今だからこそ、ポルシェの世界はより立体的になり、奥行きを増しています。
通勤や送迎など忙しい平日を、家族とともにタイカンでスマートに乗り切った後、休日は思いっきり911のエンジンを楽しみ、愛車とノスタルジーに浸るような。
はたまた、ONでは911でフットワークよくアグレッシブに移動をこなし、OFFにはマカンエレクリックで大切なパートナーとともに荷物を積み込み、道中のワインディングドライブを楽しむような。
そんな新たなライフスタイルを実現してくれる911は、クルマという枠を超えて、「人生をどう楽しむか」という問いに応えてくれる特別な存在です。
それは「変わらないために変わり続けてきた」、ひとつの哲学であり、思想であり、そして文化なのだと、この992.2型と触れ合うことで改めて強く感じました。時代がどれほど変わろうとも、人の心に響くクルマが求められる限り、911はこれからも進化し続けていくことでしょう。

Words:Tatsuhiko Kanno / Yuki Kobayashi
Photographs:Hiroyuki Onuma