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後編|ポルシェの真髄
Porsche Team EBI が勝利の先に描くビジョンとは?

EBI GROUP は「ポルシェの真髄」に触れるべく、2012年よりレース活動を開始しました。そして2021年からPorsche Team EBI (以下、チームEBI)は、スーパー耐久シリーズ(以下、S耐)に挑み続けています。

「耐久レース」というのは、最大で24時間にも渡り、車にも人間にも甚大な負荷がかかる過酷極まる戦いであると、前編でお伝えしました。そしてその過酷な環境こそが、各ポルシェセンターから集い、レースメカニックとしてチームに帯同するテクニシャンたちの技術的、精神的な鍛錬の場となるのです。

では、そもそも EBI GROUP が追い求め続けている「ポルシェの真髄」とはいったい何なのか。2024年のS耐を舞台に、チームEBIが描くビジョンとともに読み解いていきたいと思います。

クラス優勝を果たした、第5戦 SUZUKA S耐 表彰台にて。

Porsche Team EBIとは…

2012年、國際グループ内 Excellence Group がレーシングチームを立ち上げ、ポルシェカレラカップジャパンに参戦して以降、国内最高峰のシリーズに継続参戦。

2024年は、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE」のST-Zクラスに、〈Porsche 718 Cayman GT4 RS Clubsport〉で挑んだ。ドライバーには山野直也、北園将太に加えて、久保凜太郎、岩澤優吾の2名を新たに起用。レースメカニックには、例年同様 EBI GROUP の各ポルシェセンターから選ばれしテクニシャンの精鋭が参戦。

車両の潜在能力を
チームで最大限引き上げる

最大で24時間にわたって車と人間に負荷がかかり続ける耐久レースでは、ドライバー、エンジニア、メカニック、マネージメント(他、マーケティング部門など)など、チームのすべてのセクションが力を合わせて初めて、勝利へ向かう準備が整います。

第5戦 SUZUKA S耐 決勝前のチームミーティングにて、全セクションが集まりレース戦略を練る様子。

勝負は、決勝のスタートシグナルのはるか前から、すでに始まっているのです。

まず、予選、本戦前のテストランにおいて、ドライバーとエンジニアが綿密にマシンのセットアップやレース戦略を練り上げます。メカニックはエンジニアの指示のもと、マシンを精確に調整していきますが、当日の気候、路面状況次第では調整内容がひっくり返ることも当たり前のように起きます。

レインタイヤに手をかけたメカニック。判断はぎりぎりで覆されることも。

例えば、第5戦の鈴鹿サーキット決勝当日である9月29日、レーススタート約2時間前から雨が降り出し、路面はウェットの状態に。しかしスタート前に急に雨が降り止み、路面が少しずつ乾き始めていました。しかし、まだ雲は分厚く、いつ雨が降ってくるか分からない難しいコンディション。

そこで他のライバルチームたちがレインタイヤを選ぶ中、チームEBIは、ドライコンディションで最大限のグリップを得られるスリックタイヤで出走するという勝負に出たのです。

功を奏して、序盤、3番手につけてスピードを上げていきます。そして急速に乾いていく路面を味方につけて、後続のGR Supra 2台を徐々に引き離していきますが……、なんとスティント終盤にスピン。

左コーナー進入直前にグリップを失い、スピンしながらコースアウト。直近で撮影したカメラマンには小砂利の雨が降り注ぐ。

神がかったハンドルさばきにより、バリケードをかすめただけで、ダメージなくコースに復帰できましたが、ピットではチーム全員が青ざめたのは間違いありません。タイヤひとつの選択を取っても、刻一刻と変わる路面の状況などさまざまな要因が絡み合って、レース状況がガラッと一変してしまうのです。

雨自体は止んだが、コース上はマシンによって水しぶきがあがる状況。さあ、あなたならどのタイヤを選択する?

このように、ドライバー個人のスキルだけではなく、チームの各セクションでの事前準備や判断、セッティングなどによって、レーシングマシンのポテンシャルは初めて最大限まで引き出されるのです。

各PCからテクニシャンが参戦
極限状態で車と向き合う

Porsche Team EBI というチームの特徴のひとつに、毎年、EBI GROUP の各ポルシェセンターの工場からテクニシャンが参加し、レースメカニックとして帯同する点があります。ポルシェのテクニシャンとして培った知識や技術をピット作業で活かす、と言えば聞こえが良いのですが、実際は真逆になることも多いのです。

時間に追われる中、CPU診断機でマシンの状態をチェックしていく。日常業務では上司と部下の関係でも、ここでは等しく、いちレースメカニックであり、同志となる。

サーキットと各ポルシェセンターの工場では整備に求められる精確さと安全性は同じでも、まったく勝手が異なります。そのため、日常の業務でいくら勤務年数を積み、豊かな経験を持っているテクニシャンでも、レースのピットでは等しく一人のメカニックとして扱われ、エンジニアの指示のもと動きます。

どう勝手が違うのか。
それは、ピット作業もレースの一部であり、求められるスピードと効率性の基準が、日常での整備とはまったく異なる点です。

ピット作業のスピードによって
順位が入れ替わるシビアさ

レインタイヤへ交換するために準備中。

長時間を走る耐久レースでは、タイヤ交換が頻繁に行われます。メカニックにとって慣れている作業でも、普段のサービスセンターでの整備のように交換後にテストドライブによる安全確認はできません。

タイヤを交換後、マシンはすぐに本コースに戻り、500馬力近い大パワーによる全開走行で、一気に200km/hオーバーの世界へ身を投じなければいけません。当然ですが、万が一ホイールが正確にはまっていない状態だった場合、甚大な事故を招く可能性があります。

第5戦 SUZUKA S耐 決勝。ピットインしたマシンが完全停止した瞬間、真っ先に作業に取り掛かろうと、構えるメカニックたち。

しかし4本あるタイヤ交換に、どれだけの時間をかければよいのでしょうか。

実は、ピットイン中にメカニックが1本のタイヤホイールの交換にかける時間は、なんとたった「13秒」ほど。チームEBIのGT4の場合、1つのホイールが5本のボルトで固定されています。

単純に作業を追っていくと、まず5本のホイールナットを順番に緩めていき、20kgほどあるタイヤホイールを車体から取り外します。そして、新しいタイヤホイールをハブにはめ込み、再度5本のホイールナットを順番に狂いなく締めつけていきます。

この作業をたった「13秒」で完璧に終わらせているのです。普通に考えると、ちょっと計算が合わないほど速いですよね……。

ドライバーが命懸けで削ったコンマ数秒のタイムを、さらにピット作業によって短縮させ、トータルで表彰台を勝ち取るのです。だからこそピット作業においては、メカニックたちは集中力を極限まで研ぎ澄ますことが求められます。

1本約20kgのタイヤホイールの交換を、約13秒で精確にこなす。日常の車両整備では、その何倍もの時間をかけるのが一般的。

栄光に向けて練成されていく
チームの「絆」

第2戦 富士 24時間レース 決勝前に円陣を組むチームEBI。

フェリー・ポルシェは、1951年とその翌年のル・マン24時間レースで連続クラス優勝を果たしたときに、「サーキットはこの上ない“ショールーム”である」との考えを明らかにしたといいます。

自動車メーカーにとって、モータースポーツは新技術の開発の場である一方、高い性能をアピールする場でもあります。裏を返せば、ポルシェらしい最高のパフォーマンスをお客さまに披露するために、ポルシェは世界中のレースで勝利を重ねてきました。

対して、ポルシェディーラーである EBI GROUP は、「サーキットこそ、この上ない“人財育成の場”である」という考えのもと、レースに参戦しています。レースでは各セクションの作業が同時並行で行われるため、チーム内での円滑かつ正確なコミュニケーションがすべてを握るカギとなります。栄光を勝ち取るには、チームの絆が問われるのです。

第2戦 富士24時間レース。24時間を戦い抜いたチェッカー時にコースへ駆け寄るチームEBI。

勝負というものは順位がすべてではあるものの、チームに大きな事故がなく完走を成し遂げたとき、ピットは安堵の空気に包まれます。ましてや表彰台の頂点に上ったときには、自然と涙が溢れ出すのは当然のことでしょう。

極限という状況下で、メンバーのもたらしたすべてが奇跡のように1つの完璧なピースとなって初めて、栄光のチェッカーフラッグを受けられるのですから。

 

一方で、テクニシャンたちは、数々の戦いの中で綿密なコミュニケーションを繰り返し、チームとしての絆を高めていきながら、技術と人間力も磨かれ、人財として育っていきます。

レースを始めてから2025年で13年目、もはや EBI GROUP のテクニシャンたちの成長に、レースでの現場経験は切っても切れないほど、大きなウェイトを占めるようになってきているのです。

ポルシェの哲学を紡いでいく
それがチームEBIの使命である

第5戦 SUZUKA S耐 決勝にて、ST-Zクラス優勝を獲得した瞬間。

EBI GROUP にとってサーキットは、ポルシェらしい最高のパフォーマンス、メカニックたちの技術力、そしてチームEBI の団結力を、ポルシェユーザーであるお客さまに直接披露できるチャンスの場です。

そして我々がレースでの勝利と共に受け取った、ポルシェが築き上げてきた栄光の歴史や先人たちの想い、いわば「ポルシェの真髄」を、今度はお客さまへとバトンをつなぎます。

「ポルシェの真髄」とは、性能やデザインというプロダクトの枠を超え、車を通じてかけがえないのない感動をもたらし、人々の心を動かす“象徴”で在り続けることなのです。それをお客さまと共有し、多くの人たちへとポルシェのフィロソフィーを紡いでいく、それがチームEBIの使命だと信じています。

第2戦 富士24時間レース。無事に24時間を走り終え、満身創痍で帰還したGT4。お客さま・社員・チームの家族など、多くのサポーターたちからたくさんの賛辞が贈られた感動の瞬間。

チームEBIはこれからも戦い続けます。
ぜひ、その魂をともにサーキットで共有していただければ幸いです。

Words:Tatsuhiko Kanno / Yuki Kobayashi
Photographs:Yukihito Onishi / Etsuko Murakami

– TEAM EBI DIGITAL STUDIO –