RACE

フォーミュラEを知る
クルマの未来を切り拓く最高峰レースシリーズ

2025年5月17-18日、東京・有明にて「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」の第8・9戦が開催され、熱いレースが繰り広げられました。

第9戦では最後までトップ争いを繰り広げた「TAG Heuer Porsche Formula E Team」のパスカル・ウェーレインがトップ2入り。一方、チームメイトのアントニオ・フェリックス・ダ・コスタはレース序盤、トップ5を追いかけていたところ接触事故でリタイヤとなりました。

レース前日の5月16日(金)には、東京E-Prixの開催を記念したプレイベントが開催され、特別招待されたファンの皆さまが、EBIグループのポルシェスタジオ銀座で記憶に残る時間を過ごされました。イベントの詳細は以下より御覧いただけます。

ポルシェがフォーミュラEに参戦したのは2019年。電気自動車の可能性と性能に注目してきたポルシェは、同志を抱く「TAG Heuer(タグ・ホイヤー)」と強固なパートナーシップを結びました。

スポーツカーのリーディング・カンパニーとして自動車業界を牽引してきたポルシェが、フォーミュラEの世界でどのような走りを魅せてくれるのか、常に注目を集めています。

そこで今回、正規ポルシェディーラーである EBIグループは、東京E-Prixでの表彰台獲得を祝して、あらためてフォーミュラEの魅力に迫りたいと思います。

フォーミュラEの魅力

フォーミュラE世界選手権、改め「ABB FIA フォーミュラE」では、電気エネルギーだけを動力源とする国際自動車連盟(FIA)のフォーミュラマシンによるレースです。レース中、化石燃料を使用しないため、ネットゼロ・カーボンを達成した世界初のモータースポーツとしても注目されています。

ポルシェとタッグを組んだタグ・ホイヤーは2014年のフォーミュラE創設以来、共同創始者としてのスポンサーシップと公式タイムキーパーとして、選手権を支えています。

11シーズン目となる2025年は、世界 10 カ国で計 16 レースが開催されます。2024/25年シーズンには計11チームが参戦。各チームは2台のマシンと2人のドライバーで選手権を争う点、各レースの順位に応じてポイントを獲得していくシステムは、Formula 1®(以下、F1)と同じです。

フォーミュラEのレース時間は短く、予選のグループステージのセッションは1回あたりたった10分間!(300kWによるラップタイムを競う)決勝レースは45分の時間内に決められた周回数をこなすルールなので、まさにスピード勝負です。この点は最大走行時間を約2時間と定めているF1と異なりますね。

その他、F1や他のモータースポーツとは異なるフォーミュラEならではのルールや魅力を見てみましょう。

市街地をフォーミュラマシンが駆け抜ける

Tokyo E-Prix, FIA Formula E, 2025, Porsche AG

フォーミュラEの魅力はなんといっても、世界各都市の市街地がコースとなる点です(モータースポーツ専用常設サーキットで行われる場合もあり)。走行音が小さく、二酸化炭素を排出しないフル電動のフォーミュラカーだからこそ、このコースを実現できました。

決勝コースはおよそ全長2.5kmと短く(例:富士スピードウェイ 約4.5km)、その中で22台ものマシンが最高時速320kmにまで達するスピードでせめぎ合う様子は「高速のチェス」と表現されることも。観客の目の前を通り過ぎる一瞬の中に、人々の様々な想いや技術革新の歴史などが詰まっていると思うと感無量です。

勝負を分けるアタックモード

99X Electric, Marrakesh E-Prix, 2022, Porsche AG

フォーミュラEならではのルールのひとつに「アタックモード」があります。これは通常300kW(400馬力相当)のパワーのところを、350kW(480馬力相当)まで増大させて走行するもので、各ドライバーが2度、計8分間使用することが義務付けられています。

しかしアタックモード切替はスイッチ操作で簡単にできますが、使用する際は通常のレーシングラインから大回りするコース上の「アクティベーションゾーン」を通過しなければいけません。ライバルとの位置関係などを考慮しながら、このアタックモードをいつ使用するのかが、勝負の分かれ目となります。

そして、シーズン10の後半からは「アタック・チャージ」が導入され、すべての車両にピットレーンで30秒間の超高速充電を行うことが義務付けられました。この追加ルールによって新たな戦略性が生まれ、ますます接戦を盛り上げてくれるようになりました。

〈Porsche 99X Electric〉と
市販車〈タイカン〉への技術移転

フォーミュラEは自動車メーカー各社にとっては最新鋭EV技術の究極の実験場であり、そのお披露目の場でもあります。しかし、実際にはシャシーやバッテリー、タイヤと全体の約8割を占めるコンポーネントは、大会規定のものを使わなければいけません。

つまり、エントラントが独自に開発できるのは残り2割、モーターやギアボックスなどの「パワートレインコンポーネント」がメインとなります。

各社の個性がわかりやすいツーリングカーレースと比べると、フォーミュラEのマシンはライバルたちとのエクステリアの違いが微小です。

しかし、このパワートレインの開発に心血を注いだ結果、ポルシェからEVのゲームチェンジャー的存在〈タイカン〉が生まれたのは紛れもない事実です。

2019/20年シーズン〈99X Electric〉

E-prixでの勝利のカギを握るのは、一にも二にも“エネルギー効率”です。

フォーミュラEへの参戦が決定して以降、ポルシェのエンジニアたちはパワートレインの開発に、FIA世界耐久選手権(WEC)で活躍した〈919 ハイブリッド〉のテクノロジーを応用しました。

すなわち制動時や加速時に発生するエネルギーを極限まで回生し、電気として逃さずバッテリーへ蓄え、必要な瞬間に一気に、そして無駄なく、加速力へ転換させるテクノロジーです。

2016年 〈919 ハイブリッド〉

これらの技術は市販車である〈タイカン〉に応用され、例えば「ブーストモード」を作動させると10秒間最大120kW(163馬力分)を上乗せして、爆発的な加速力を魅せてくれます。レーシングカーの技術を市販車に落とし込み、シナジー効果を生み出すポルシェの伝統的な手法は、フォーミュラEにおいてもしっかりと受け継がれていることがわかります。

市販車〈タイカン〉がデビューしたのも、ポルシェにとってフォーミュラE初シーズンの2019年。そして2024年5月以降、〈タイカン ターボGT〉はフォーミュラEの公式セーフティーカーとしての任務を遂行している。
2024/25年シーズンは改良型第3世代フォーミュラEマシン「Gen3 Evo」がレギュレーションに導入。戦闘機のデルタウィングを想起させるデザインは空力効率に優れていて、その実、「Gen3 Evo」は0-60 mph(0-96.5 km/h)加速をわずか1.82秒で達成し、320km/hを超える最高速度を実現する。加速性能では現行のF1マシンを約30%も上回っており、FIA公認のシングルシーターレーシングカーとしては最速の車両。
「Gen3 Evo」のレギュレーションに準拠した現行〈99X Electric〉。車体全体を彩るパープルスカイメタリックと、フロントウィングにあしらわれたシェードグリーンメタリックは、〈タイカン ターボGT〉発表時にも設定されたエクステリアカラーで、モータースポーツから市販車への技術移転を象徴するカラーでもある。
2022年ジャカルタ E-Prixにて。フォーミュラEの会場では、エンジニア、メカニック、デザイナー、プログラマーが、レーシングカーの性能を最大限引き出すためにレース中は常に微調整している。さらに、本国ドイツ・ヴァイザッハの研究開発センターでは、レース中の車両からリアルタイムで送られてくるデータを分析し、サーキットと常に連絡を取り合っている。これらの情報がすべて市販車に反映されるのだ。

ポルシェがフォーミュラEに
参戦する理由とは

Porsche 99X, Electric (#94), Pascal Wehrlein, (#13) António Félix da Costa, Tokyo, Japan, 2024, Porsche AG

ポルシェ取締役会長オリバー・ブルーメは2018年に、「ストラテジー2025とブランドのアイデンティティ」について語った際、ポルシェの目標を次のように話しました。

We want to change Porsche without neglecting the things that made us strong.

ポルシェを強くしてきた要素を損なうことなく、ポルシェを変えていきたい

(2018年9月4日ポルシェニュースルーム発行 “A strong brand – a clear identity”より)

EV化を推進するヨーロッパ圏に本社を置く企業として、その流れに乗るのは必然といえるでしょう。しかし、それは自動車メーカーとしての“義務”というよりは、ポルシェが世界的スポーツカーブランドとしての“使命感”によって、時代を牽引しているように感じます。

つまり、ポルシェはそのルーツであるモータースポーツから、何十年にもわたって得てきた経験と教訓をもって、これまで通り歴史的な挑戦に取り組んでいるように思えるのです。これまでと同じように、ポルシェはフォーミュラEを実験場として、公道走行に適したより良き“EVスポーツカー”をつくっていくのでしょう。

Pascal Wehrlein, 99X Electric, 2025, Porsche AG

例えば、フォーミュラEのパートナーであるタグ・ホイヤーは、スマートウォッチを開発する際に、決してラグジュアリー時計ブランドとしての矜持を忘れませんでした。様々なデジタル機能が備わったとしても、時計職人のもつクラフツマンシップや、ブランドが育て上げてきたストーリー以上に人々の感情を揺さぶるものはないからです。

そしてタグ・ホイヤーは自社のヘリテージをもってして“生み出されるべきスマートウォッチ”、「コネクテッド」シリーズを世に誕生させたのです。同じことが、ポルシェでも言えます。

スポーツカーの輝かしい未来は、ポルシェのヘリテージと価値観、持続可能なテクノロジー、そしてエモーショナルなドライビングエクスペリエンス、すべてが融合されることで切り拓かれていきます。だからこそ、その実現の舞台でもあるフォーミュラEを、EBIグループは期待感をもって応援していきたいと思います。

Words:Yuki Kobayashi / Tatsuhiko Kanno
Photographs:Porsche AG

– TEAM EBI DIGITAL STUDIO –