REVIEWS

#3|試乗レビュー編|撮り下ろし
世界が待ち望んだ新型 Macan Electric レポート

内燃機関を抱き、エキゾーストノートを轟かせて走り抜けるスポーツカー。これこそがポルシェの伝統を引き継いだ車といえるでしょう。

しかし、スマートデバイスを中心に再構築される現代の人々の生活に寄り添っていくのは、ポルシェのBEV(Battery Electric Vehicle、電気自動車)なのだと、EBI DIGITAL STUDIO 編集部は強く感じています。

これまでBEVは、環境への配慮という点で注目を受け、エンジン車との比較がなされ、常にエンジン車の延長上に性能が語られてきました。しかし、マカン エレクトリックをあらためてレビューしていく中で、今、BEVを中心に車の楽しみ方自体に大きな地殻変動が起きているのだと痛感したのです。

そこで前回の <#2|インテリア/新機能編> に引き続き、今回は、この革新的なスーパーSUVの走りをレビューすると共に、マカン エレクトリックが牽引するスポーツカーの未来をも紐解いていきたいと思います。

現在進行形のパラダイムシフト

今回、東京の夜を背景にマカン エレクトリックで首都高環状線を流していたところ、ふと、まるで車と自分自身が、街全体とシンクロしていくように感じられた瞬間がありました。

このわずか10年ほどの間で、急速に都市が再構築され、かつての首都高とは異なる情景が窓ガラスに映ります。我々は走行レビューの前に、そもそも走る場所自体が価値観も含めて大きく変わっていっている事実に目を向けなくてはいけないでしょう。

車が走る都市自体の変革

今、ここ東京都心では、様々な価値観やライフスタイルにおいて大きなパラダイムシフトが起きています。例えば、ポルシェセンター高輪がある、高輪ゲートウェイシティ。新設された駅を含む周辺の再開発は最大で13ヘクタールにまで及び、文字通り巨大な未来都市が生まれようとしています。

その中心となる商業施設に足を踏み入れると、もはやショッピングという目的を達成するための施設とは、構造もコンセプトも大きく異なっていることに気付かされます。

今回の撮影時点で一部施設が先行開業している、高輪ゲートウェイシティ。
ショッピングモールは、「買い物をする場所」から、体験をより重視した「サードプレイス」へ変革してきている。

ここは街づくりと同じスケールでつくられた施設であり、誰もが心地よく過ごし、様々な文化に刺激を受け、多様な価値観に出会える、新たなサードプレイスのような場所となっているのです。

いわゆる伝統的な百貨店などに代表される、画一化されたフロア構造とは違います。

どちらが良い悪いということでなく、楽しみ方そのものが大きく異なるのです。

すべてが違う Passion from Driving

今回のマカン エレクトリックの試乗を通して、このようなパラダイムシフトが実はポルシェの楽しみ方にも起きているのだと、強く感じました。

従来のエンジン車で夜の首都高速を走るとなれば、エキゾーストノートが極限まで高まっていく反響音、タイトなコーナーを駆け抜けるハンドリングなど、エキサイティングに走ることこそが真髄であり、「これぞポルシェの醍醐味」と意気揚々となる“あの感覚”が、リアルに脳裏をよぎります。

一方で、マカン エレクトリックで走るときの楽しみ方はまったく異なることに気付きます。

音量は抑えめながら、体の芯に直接届くような、感性に働きかけるエレクトリックスポーツサウンド。荒れた路面を舐めるように走るシルキーなライドフィール。絶対的に安心感のある極厚なトルク。そして室内の幻想的かつ、コミュニカティブなアンビエントライト。

夜の帳に包まれる中で、それらが渾然一体となり、未来へ向けて急速に進化していく街並みと、あたかも“シンクロ”していくような感覚となるのです。それは従来の「車の操縦を楽しむ」、という概念を大きく超えた次元の感覚です。

そんなフィーチャリスティックなドライブ体験を、すべての方に味わっていただきたいと、強く感じました。既存の車好きほど、かなりインパクトがある体験になるのではないでしょうか。

凛然たる静けさの奥から
湧き上がる大パワー

前述のとおり、もはや既存の評価軸でレビューすること自体が、少し的外れな感覚すらあるマカン エレクトリック。とはいえ、その走り自体が魅力的なのは間違いありません。

今回走らせたのは、2台のマカンターボ エレクトリック。最高出力639PS 最大トルク1130Nm(最大ブースト時)という途方もないスペックを持つこのスーパーSUVをドライブして、まず驚くのは際限のない“伸びやかさ”です。

マカンターボのアクセルを軽く踏み込むと、すぐさま4輪へとエネルギーが伝わり、まるで軽量級のスーパーカーのように一気に車体は弾き出されます。そして、その存在感を周りに誇示するよりも、自分自身と対話を重ねるように、どこまでも伸びやかに加速していくのです。轟かせて誇示するのではなく、湧き上がるように伸びやかに。

あたかも無限の泉のように、パワーが際限なく溢れ出てきます。それでいて加減速に過敏さはまったくなく、なめらかで、実に上品です。

確かにBEVには、エンジンの回転数が上がるにつれて気分が高揚するようなドライブフィールはなく、今後も生まれることはないでしょう。しかしこの強大なトルク感と、右足の動きに連動するエレクトリックスポーツサウンドが織りなす独自の世界観に慣れてくると、もはや「こちらのほうがスマートで魅力的では…」と思えるほどでした。

BEVを昇華させる
サーキット生まれの技術

マカン エレクトリックの走りの根幹をなすのは、言わずもがな、サーキットからの技術移転によるテクノロジーです。

例えば、コースティング(惰性走行)。ブレーキペダルの操作レベル、温度、バッテリー充電状態などに応じて、240kWまでの回生が可能であり、最大591kmまでの航続距離を誇ります。

バッテリー残量にヤキモキせず、急いで充電ステーションを探すこともせずに、快適にドライブを楽しむことができます。

幻想的なアンビエントライトが、新たな走りの世界を予感させる。後方からの接近車に反応したり、ドライブモードの変更で点滅・点灯したり、コミュニケーションライトとしても機能する。

ドライブモードを変えると回生ブレーキの強さの変化を感じられます。デフォルトの「ノーマル」、「スポーツ」、「スポーツプラス」と後者につれ、よりレスポンスがよくなります。

この回生技術こそ、ポルシェがル・マン24時間レースやフォーミュラEで勝利を勝ち取るべく心血注いできたテクノロジー革新であり、ポルシェが誇るサーキットからの技術移転のひとつです。そして、ポルシェのBEVを極みへと昇華させる陰ながらのテクノロジーともいえるでしょう。

SUVの概念を覆す身のこなし

このマカンターボ エレクトリックで、コーナーからコーナーまでの擬似的なS字カーブを走り抜けたときに、あらためて驚かされたことがあります。

右にハンドルを切り込み、荷重が外側へ移動してから、逆にハンドルを切って荷重移動していくモーション中の車両感覚が、911のそれにとても近いフィーリングを感じたからです。

それは本来、超高剛性のボディとシャーシを有し、絶対重心が低いスポーツカーモデルでしか感じ得ないものです。

本来SUVタイプは、車体のねじれやサスの長いストロークなどによって、そういったソリッドな感覚が打ち消されてしまいます。新開発されたPPEというBEV専用プラットフォームをベースに様々な要素が作用することで、超高性能2ドアスポーツカーと遜色のない身のこなしを手中にしていました。

この運動性能はBEVでなければ、間違いなく実現不可能な領域です。

近年になってSDV(Software Defined Vehicle)という言葉をよく聞くようになりましたが、ご存じでしょうか。従来の車とは異なり、「ソフトウェアによって車の機能や性能が定義され、評価される」ということです。

あたかもスマートフォンのようにも捉えられる概念ですが、ことポルシェに関しては、徹底的に鍛え上げられたハードウェアがあるからこそ、このスーパーSUVが存在し得ている、ということを改めて強く感じた瞬間でした。

卓越した走りによる感情の揺さぶり、それこそが、やはりポルシェが選ばれる最大の理由なのでしょう。

急速に増える
チャージングステーション

BEV購入のネックと考えてる方が多い充電スポットについても、あらためて今回確認してみました。

チャージングステーションをGoogle mapで探してみると、ポルシェスタジオ銀座3km圏内だけでも、すごい数のスポットがあることに気付きます。そしてその数は加速度的に増えていっています。

赤いイナズママークがチャージングステーション(Google map 参照)

逆に、今や都心でガソリンスタンドを探すことは本当に苦労します。

1ヶ月に500kmも走行しないのであれば、BEVは月に1度充電するかどうかです。それであれば自宅にEVチャージャーをわざわざ設置する必要もないでしょう。自宅ガレージにガソリンスタンドがないのと同じですね。

ポルシェと共に往く、拓けた世界

東京という街がかつての伝統を守りながら、世界的な最先端都市に生まれ変わろうとしています。

多くの場所で街を変革する再開発が行われている姿は、既存のガソリン車からBEVのスポーツカーへと生まれ変わろうとしているポルシェに通じるものを感じます。

ガラケーからスマートフォンに移行したように、延長線上の正常進化ではなく、まったく価値基準の異なる新たなスポーツカーへの進化を、ポルシェ自身が辿ろうとしています。

マカン エレクトリックは、最先端ながらも誰もが使えるユニバーサルなUIや、どの世代の美意識にも訴えかけるスタイリッシュなエクステリアを纏い、我々のカーライフをまったく異なるものへとアップデートする道標となってくれます。

我々の生活に浸透してきているスマートで拓かれた世界に迎合され、車という従来のジャンルからさえも解放され、未来へと続く“オープン・ワールド”へ乗り入れていくことでしょう。

エンジンか、モーターか。その選択の論点は、ご自身の価値観、生き方にあります。

EBIグループでは、「モーター × エンジン ポルシェ“新”比較試乗プラン」を新たに始動しました。ぜひそのプランを体験し、どんな未来を選択するのか、ご自身の心に問いかけてみてはいかがでしょう。

Choose your future.

Words:Tatsuhiko Kanno / Yuki Kobayashi
Photographs:Doshi Hirata

– TEAM EBI DIGITAL STUDIO –