モノやサービスが消費者に広く行き渡る現代。日本に住む私たちは、ことさら、物質的な豊かさを享受していると感じるでしょう。
2020年のコロナ禍を経て、オンラインでの体験を含めて“トキ消費”が多様化し、多くの企業がブランド体験における「特別な瞬間」の提供に力を入れています。
世に数多あるブランド体験の中で、今、改めてEBI DIGITAL STUDIO 編集部が注目したいのが、誰でもポルシェの持つ深淵なる世界に浸ることができる「ポルシェエクスペリエンスセンター東京(以下、PEC東京)」です。

皆さまのご存知の通り、PEC東京は2021年に日本の千葉県木更津市にオープンした、世界で9番目となる施設です。その立ち上げ時に、ポルシェ セールス&マーケティング担当取締役デトレフ・フォン・プラテンは、次のように話しています。
ポルシェは唯一無二の顧客体験を何よりも大切にしており、世界各地に展開するポルシェ・エクスペリエンスセンターは、自動車業界では他に類を見ないこのアプローチを体現しています。
(2020年11月発行ポルシェ プレスリリース「Ninth Porsche Experience Centre to be built in Japan」より)
そこで編集部はPEC東京で「唯一無二の顧客体験」を味わうべく、最新の911カレラGTSと共にドライビングプログラムを体験してきました。その体験を通じて直に感じ取った、ポルシェがPECに懸けた想いをお伝えしたいと思います。

雛形はライプツィヒ工場のデモトラック
ここでPECのルーツをおさらいしておきましょう。PECが誕生する前、本国ドイツ・ライプツィヒの自社工場にあるデモトラックでは、安全に車をお客さまの元に届けられるように、工場で完成したすべての車をテスト走行させていました。
132ヘクタールもの広大な土地は、元々、ドイツ帝国の時代から1999年まで歴代政権の軍事練習場として使われていたもの。かつての掩体壕を活用したオフロード・コースもあります。全長3.7km(幅12m)のトラックには、日本の鈴鹿サーキットを含む世界的に有名なサーキットの11の壮大なコーナーが組み込まれ、本格的なサーキット走行を楽しめます。


工場まで直接引き取りに来たお客さまはデモトラックでの試乗特典を獲得できました。ポルシェのダイナミクス、テクノロジー、そして安全性を堪能できる特別な走行体験は評判を呼び、やがて「ポルシェエクスペリエンスセンター」と形を変え、世界へと広がっていったのです。
さながらポルシェの
“アミューズメントパーク”
PEC東京でまず目に入るのは、本館のファサード。日本の伝統工芸である江戸切子をモチーフとし、伝統紋様「矢来紋」があしらわれています。

1階正面入口から入ってすぐ、アトリウムでは、クラシックモデルから最新のモデルまで、様々なポルシェが展示されています。プログラム体験当日もそうそうたる面々がお出迎えしてくれました。




それはまるで公道からレース、サーキットからオフロード、空冷からEVまで、これまで築き上げ、拡大してきたポルシェの世界を包括するような世界観を感じるエキシビジョンです。各ショールームでもなかなか見ることができないレジェンダリーなモデルを前に、来場者の方々も興味深そうに見入っていました。

ふと待合スペースを見てみると、男女のカップル、男性グループ、そしてご夫婦の姿が。皆さま、今か今かとドライビング体験の順番が回ってくるのを待ちわびている様子で、トラックを眺めています。
その多彩なお客さまの顔ぶれと、来場したクルマを見る限り、PEC東京という存在がポルシェだけでなく、より多くのスポーツカーファンの方々に広く門戸を開いているのだと改めて実感しました。
世界のサーキットの難所を集めたトラック

アトリウムを抜けると、目の前には木更津の自然美の中に、全長2.1kmの【ハンドリングトラック】が広がっています。自然の地形を活かした、高低差のある独自の3Dトラックでは、参加者がドライビングスキルを磨くことができます。
43ヘクタールもある敷地内には、磨き上げた路面の【ローフリクション ハンドリングトラック】、【オフロードコース】、急制動を行える【ダイナミックエリア】や、人工的に不安定な状況を作り出す【キックプレート】など、6つのモジュールが各所に点在しています。

ポルシェの性能の片鱗を味わいながら、エキサイティングなドライブ体験ができるPEC東京は、ドライバーの目にはさながら“ポルシェのアミューズメント・パーク”のように映るでしょう。

そもそも、プロドライバーとチームが凌ぎを削るサーキットは、いわば闘いの場。そんな神聖なサンクチュアリとも言える場をトラックに再現し、設備を整え、一般の人々でもそのエッセンスを体験することができるエンターテインメント的施設として提供しているのです。
その点において、PEC東京は自動車業界において特異な存在であり、東京都心からたった1時間ほどで立ち寄ることができる利便性の高さも踏まえると、“革命的”な施設と言えるでしょう。
ポルシェの性能を体感する
ドライビングプログラム
今回体験したのは、ポルシェドライビングコーチがマンツーマンで指導する90分間のプログラム「ドライビング体験」です。さまざまなモジュールを活用し、路面状況に応じてポルシェがどのように反応するか、さらにその背景にある自動車理論を学び、ドライビングスキルを磨きます。



ハンドリングトラックで
人馬一体となる感覚を味わう

まず最初に走行したのは、世界中のサーキットのさまざまなコーナーが再現されている【ハンドリングトラック】です。最初に車両の説明を受けた後、デモンストレーションとしてインストラクターの運転でコースを周り、走り方を確認します。
コースの幅は、富士スピードウェイなどの国際サーキットはもちろん、近隣の袖ヶ浦フォレストレースウェイと比べても、よりタイトな印象です。

そもそも、追い抜きを前提とせず、コーナー間のライン取りや目線の取り方、アクセル/ブレーキタイミングなどの走りの基礎を学ぶことに集中できるようなコース設計なのだと、あらためて感じることができました。
これであれば、速度域もそこまで上がらないため、初心者でも安心して安全に体験することができるでしょう。
数あるコーナーの中でも印象深かったのは、ドイツ・ニュルブルクリンクのカルーセル(カラツィオラ・カルッセル)を模したコーナー。見た目の雰囲気はまさに映像でよく見るニュルのカルーセルそのもの。
かなり角度がついたコーナーにクルマごと飛び込んでいき、アクセルをパーシャルに保ちながら、外側に向けて発生する遠心力でタイヤが路面にへばりつく感触が伝わってきます。

こういったRのきついコーナーでは、あらためてエイペックスポイントへダイナミックに目線を寄せておくことが重要なのだと、911全体の挙動からも再認識できました。
信号も飛び出しの危険もないストレスフリーなトラックでは、全神経を運転に集中させることができます。本格的なレースと同じ走行…とまではいきませんが、車の性能や性格を身体で受け止め、委ねていくと、あたかもポルシェと自分自身が一体になっていくような感覚に気付きます。
これは公道では味わうことができないものであり、クルマ好きとしては全身からアドレナリンが噴出するような感動体験となるのは間違いないでしょう。
車の制御方法を学ぶ
ローフリクション・ハンドリングトラック

次に蛇行したコース【ローフリクション・ハンドリングトラック】で学ぶのは、車の微細なコントロール方法です。
磨かれた路面は低速域でオーバーステアとアンダーステアを誘発させられるので、タイヤの滑り始める感触を探りながら、アクセルのON/OFFとステアリングの連動性のタイミング・荷重移動などを習得します。

最新の911カレラGTSでは、タイヤへの荷重量を表示する新機能が搭載されています。これでドライバーは自身の体感と同じタイミングで、車の荷重移動を目で知ることができるのです。(見る余裕があればですが)

実際に体験すると、ステアリングを戻し始めるのと同時タイミングで、徐々にアクセルを踏み始めるといった、単純にON/OFFでは分けられない、ステアリングとアクセルの微細な連動性の大切さを、低速域で安全に体で覚えることができました。
フル加速/フル制動を味わう
ダイナミックエリア

長方形の舗装された広大な【ダイナミックエリア】では、スラローム、フルブレーキ、ローンチコントロールなど、ドライな路面特性を利用した特別なプログラムを体験することができます。
中でも今回、最新型の911カレラGTSで挑戦した「ローンチコントロール」には脱帽でした。停止状態で左足でブレーキを踏み込んだまま、右足でアクセルを床まで踏み込みエンジン回転を一気に上げます。エンジン音と心臓の脈動がピークに達したとき、左足を解放すると、超特大のハンマーで後ろから弾き飛ばされたように爆発的に加速します。

それはあたかも、自分の影が置いていかれるような感覚です。911カレラGTSの0-100kmスプリントは約3秒。610Nm/541馬力という数字を頭に叩き込んでいても、フル加速を直に体で受け止めたときの衝撃は言葉にできません。
特に今回初めての電動ターボチャージャーが組み込まれたGTSは、もはやエンジン車の加速感ではなく、まさにタイカンなどの特大トルクを持つハイパーEVのそれ。理性と視界が追いつかないような錯覚にとらわれました。
そして、フル加速によって一気に約120km/h付近までメーターが跳ね上がると、今度はブレーキングポイントのパイロンを目印にし、ブレーキペダルをめいっぱい床まで踏み込みます。するとABSがスムースに作動して、地面に突き刺さるように一気に車体が止まります。ABSの制御も、この新型で一段と完璧にコントロールされていることに驚きました。
このまさに“限界の加速”と“限界の制御”を体験することこそが、公道での圧倒的に余裕をもった運転に返ってくるのだと、あらためて実感しました。
車体の滑り出しを体験
ドリフトサークル
そしてその後は、スプリンクラーシステムによって散水された、低摩擦コンクリートの円周コース【ドリフトサークル】を体験しました。

磨き込まれた路面を水で濡らし、簡単に車体が滑り出すように設計されています。路面を濡らすドリフト体験は多くの他社ドライビングプログラムでもなされていることですが、ここではベース路面が滑りやすく加工されているため、タイヤのブレークがより低速で分かりやすくなっているのが特徴です。

カイエンで限界にチャレンジ
オフロードコース
今回は時間の都合上で体験できませんでしたが、PEC東京には【オフロードコース】も存在します。非常に本格的なオフロードエリアで、ドライバーはカイエンのパフォーマンスを体験することができます。中でも最大約40度もの急な斜面を上から降りるときの視界はまさに「直下」です。
以前に斜面の下側から撮影していた時は、こちら側にカイエンが落ちてこないか、ヒヤヒヤしながら自然と手に汗を握っていました。

多彩な体験を提供する
PECのファシリティー
PEC東京には他にも「レストラン906」や「956カフェ」、ドライビングシミュレーター、オフィシャルアイテムショップなどを備えており、ポルシェが打ち出す世界観に、五感をもって浸らせてくれます。
ファインダイニングで
ドライブの余韻に浸る

ポルシェの“食”の世界を堪能できるファインダイニングでは、こだわりの地元食材を活かし、アートのように彩られた一皿が、思い出に残る時間を提供します。洗練されたモダンな店内には、ところどころポルシェデザインにおける美学が反映されています。
以前、ドイツ・ライプツィヒ工場のダイヤモンドタワーのレストランからコースを見下ろしたことがあるのですが、その本国の世界観がここに上手く再現されていることに驚きました。コースを眺めながら、ドライビング体験の余韻に存分に浸ることができるでしょう。

「体験」の吸引力
ポルシェスポーツカーの魅力
今回の体験を通じて、PEC東京の真髄とは日本にいながらにして、ポルシェという車が生まれ磨かれていった環境、すなわち「ブランドのゆるぎなき根幹」そのものを、気軽に、安全に、そして深く“体感”できることなのだと強く感じました。
何においてもオンライン化が進み、“トキ消費”が多様化しているデジタル時代において、五感をフル活用して全身で味わう経験は、ますます貴重になっていくでしょう。だからこそポルシェはPECを通じて、世界中のドライバーに没入体験を提供しているのです。

ポルシェを自分の体と感覚、そして感性で捉える“リアル”な体験、そしてその体験の末に得られる「人馬一体」となった感覚は何にも代えがたいものです。それこそがポルシェが提供する、そして数多あるブランド体験へと突き付ける“究極のブランド体験”、すなわち「唯一無二の顧客体験」なのでしょう。
EBIグループは2024年に、その「唯一無二の顧客体験」をオーナー様に気軽に体験していただくために、独自の走行イベント「Porsche Experience Day」を開催し、多くのお客様をアテンドいたしました。

初めて公道以外の専用コースを走る方も多く、皆さま非常に楽しまれていらっしゃったのが印象的でした。
ご自身や家族、友人と楽しむのにおすすめのプランなど、PEC東京についての詳細を知りたい方は、EBIグループのポルシェプロが集結するポルシェスタジオ銀座までご相談ください。お客さまにベストマッチなプログラム、体験プランをご紹介いたします。
Words:Tatsuhiko Kanno / Yuki Kobayashi
Photographs:Tatsuhiko Kanno / Porsche AG