世界で1,500台のみ生産された911 Spirit 70。このレジェンダリーな限定車両を手にした幸運な女性がいます。
「宝くじのようなものと思って、『当たるわけないよ』なんて夫と笑いながら申し込みました。夫婦が生まれた1970年代をオマージュしたメモリアルなデザインで、かつ若い頃からの憧れだった911が当たるとは。まさにご縁を感じます」
そう話すのは、株式会社YC.Primarilyの会長、下島千穂さん。
かつて女子バレーボールチーム・NECレッドロケッツに在籍し、選手やチームマネージャーとしてチームに貢献。その後、ファッション業界を経て、美容業界へと移り、2007年に株式会社YC.Primarilyを設立しました。そして2011年に立ち上げたヘアケアブランド「LOVECHROME(ラブクロム)」の美髪コームは、今や多くの美容家に愛されています。
LOVECHROME(ラブクロム)
日本の職人技を駆使した美髪コームを出発点に、ヘアケアアイテムやサービスを提供するブランド。下島さん自身が産後に髪質の変化に悩まされた経験を基に、「電気も電池もいらない、とかすだけで髪がきれいになる、そんなヘアコームを創りたい」という思いから誕生しました。東京・表参道には、ヘア&スカルプ研究所や、様々な髪の悩みに対してパーソナルヘアケアを提案する総合サロンも展開しています。
育児との両輪で、妥協なきビジネスの最前線に立ち続ける下島さんにとって、ポルシェは単なる移動手段ではありません。思考を整え、感性を研ぎ澄まし、新たな発想へと導く存在です。
日常のパートナーであるTaycanと、新たに迎えた911 Spirit 70。その2台がもたらす時間とインスピレーションについてお話を伺いました。
思考を整え、リセットする
“静”のポルシェ時間
下島さんが、ポルシェの代表的な電気自動車(BEV)であるTaycanを手にしたのは約4年前。元々車が好きで、20代の頃から数多くの車を乗り継いできた末に、ポルシェに辿り着きました。
Taycanが提供する穏やかな静けさは、下島さんにとって快適性を超えた意味を持ち、ドライブをさらに質の高いものへと変えたそうです。
「様々な国の車に乗ってきた中で、日本人とドイツ人の気質は似ていると感じました。そこでやっぱり1回は、憧れのポルシェに乗っておきたいと思ったのがきっかけです。
女子バレーボールチームに在籍していた頃から、車の走行音など、“音”を気にして車を選んでいましたね。というのも、当時はチームで動く場面が多く、独りになれる時間は車の中のみだったんです。だから昔から、心を落ち着けられてリラックスできる、静かな車を求めてきました。
ポルシェも走行中の静粛性からTaycanにしましたが、実際に乗ってみて、“ああ、素晴らしい、なんて素敵な車だろう”と心から惚れてしまいました。まさに理想の“自分の部屋”を手に入れたような感覚でしたね」(以下、下島千穂さん)
3人姉妹の母親でもある下島さん。次女を妊娠したタイミングで会社を立ち上げ、「女性が出産をしても輝き続ける環境」をつくるために日々奮闘する中で、自分自身を取り戻す時間の重要性を再認識したそうです。
「現在、ハワイと日本の2拠点生活をしていますが、帰国のたびに仕事に追われ、街に出ても殺伐とした空気を感じます。
だからこそ、外の世界から少し切り離されて独りになれるポルシェとの時間が、自分の中で重要になってきてるんですよね。よく、煮詰まったときは歩くと考えがまとまると言われますが、私の場合はそれがポルシェなんです。
行きにその日のタスクや考えをまとめて、帰りに一日を振り返る。ポルシェを運転していると、自ずと思考が整理されて、気持ちをフラットにリセットできます。そんな安心感、一体感がポルシェにはあるように感じられます」
エモーショナルに経営者を支える
“動”のポルシェ時間
下島さんの日常にポルシェが溶け込むと、ドライブ中に感じる“車との一体感”に夢中になったようです。アクセルやステアリング操作の機敏性、それが「競技に近い」のだと話します。
「“心地”というのかな。自分の体の動きとリンクするというか、車と一体となって動いている感覚で、競技をしているときのテンションの上がり方とすごく似ているんです。ほどよい緊張感とワクワク感……アドレナリンが出ている感じですね。
話は変わりますが、昨年末、ホノルルマラソンに参加したんです。特にトレーニングをしていなかったので、まずは30kmを目標に定めました。それで当日、30kmまで難なく走れたんですが、それを超えたあたりから左脚に痛みを感じてしまって……。
どうやら、自分のゴールを30kmに定めてしまったがために、到達した途端にアドレナリンが切れてしまったようなんです。なんとか完走しましたが、改めて人生には、そして目標達成のためには、自分を盛り立てるものが不可欠なんだと実感しました」
フルマラソンへの挑戦で、下島さんが得た気付き。それは、企業や従業員の成長を見守り、目標へと邁進する“経営者”には自身を奮い立たせ、突き動かしてくれる“高揚”が必要だということでした。
そして新たに迎え入れた 911 Spirit 70に、そんな“高揚”をさらに鮮明にしてくれる気配を感じ取っているようです。
Taycanがつくりだす心地よい静けさとは打って変わり、新型911の3.6リッター水平対向エンジンが生み出す響きは、下島さんのマインドをガラリと切り替えます。
「直感的に、エンジン音に体が反応しているのがわかりました。自ずとアドレナリンが出てくる感覚。走行音も気にならない……というよりも、もしかしたらエンジン音にノっているんだと思います。
コンパクトなサイズながら、ゆとりを感じる車内空間も乗り心地が良いですね。密着度というか……自分の体型にぴったりのパターンで仕立てたオーダーメイド服のようです。
ステアリングもより機微を読み取ってくれて、しっくりとくるんですよね。だからこそ、スピードに乗ったときのトルクが体に伝わってきて、言葉じゃ表せない爽快感がありました。“これが911の良さね!”って腑に落ちましたね」
また、911 Spirit 70に搭載されているT-Hybridのフィーリングに、下島さんは従来のスポーツカーとは異なる魅力を見出しています。
「エンジンの力強さはありながらも、雄々しさとか変な激しさはありません。電気の丁寧さ、やわらかさと共存していて、すごく中性的な印象なんです。
そのバランスが心地よくて。加速時の衝撃にもソフトさがあり、自分の感覚に合っていると感じました」
静かに思考を整える時間と、感情を高める高揚の時間。その両方を行き来することで、下島さんの中に、豊かな気力と新たなビジネスの発想が生まれていきます。
改めて、ポルシェは移動手段“以上”の存在として下島さんのライフスタイルに寄り添い、感性を刺激し、より立体的な創造へとつなげる相棒となっているのだと感じられます。
愛車ポルシェの“人相”
「私、Taycanも911も、本当にお顔が好きなんですよ」
茶目っ気のある表情で、愛しい2台のポルシェを見つめながら、下島さんはそう話してくれました。どうやら下島さんが車を購入する際は、必ず真正面から見たときのフロントフェイスの“人相”を重視しているのだとか。
見つめていると、ディズニーのアニメーション映画『カーズ』のように、だんだんとフロントフェイスに個性ある表情が浮かんできます。下島さんは、まるで我が子を自慢するように2台のチャームポイントを教えてくれました。
「ヘッドライトを目に見立てると、Taycanは少しタレ目で、やわらかくて優しい印象。対して911は、キリッとしていてシャープ。その違いも含めて、どちらもすごく好きなんです。ね、ハンサムでしょう。
車は命を預けるものであり、人生の時間を共有する家族、いえ、相棒。だからなのか、だんだんと人のように見えて、情が湧いてしまうんですよね」
ドイツのクラフトマンシップとの共鳴
愛車への想いを伺う中で下島さんの、ポルシェの核にあるドライビングスピリットを見抜く慧眼、相棒を愛でる温かな眼差し、そして職人の技の跡を見つける審美眼に驚かされます。
電気自動車から高級スポーツカーまで、下島さんは様々な国の車を乗り継いできたからこそ、ふとした瞬間にポルシェの仕事の丁寧さに気付き、「乗れば乗るほど、良さを感じられる」と話します。
「以前、同じクラスの外車でプラスチックのパーツがポロッと取れたなんてことがあり……(笑) 苦々しい想いをしたので、自然と内装の細かな部分にも意識が向いてしまうんです。
日本人とドイツ人の気質や、技術に対するこだわり、感性が合うのでしょうか。日々、時間に追われて心が疲れてしまっても、ふとしたときに触れるハンドルやドアトリム……ほんとにさりげないステッチなど、上質な素材と繊細な技巧に胸を打たれる瞬間があります。
ドイツならではの職人技術、魂が宿っていて、日常の中でその作り手の想いに触れることで、“良いものに囲まれる”幸せを実感するんです」
ポルシェを通してドイツのクラフトマンシップに触れることで、下島さんの“ものづくり”への意識も、より研ぎ澄まされていくようです。美髪コーム「LOVECHROME」はまさにその象徴と言えるでしょう。
“誰もが認める、良いものをつくる”
それは「LOVECHROME」の美髪コームの開発において、下島さんが最も大事にした感覚でした。
髪が硬く、しっかりとした質感のアジア人の髪を整えるには、コームが適していると言われています。江戸時代、封建制度下で豪華な服装や贅沢品がご法度だった頃は、髪が美しさの象徴でした。日本人として美の原点に戻り、笑顔が溢れる体験を届けたいという想いが「LOVECHROME」には込められています。
コームで髪を梳かすと、キューティクルが剥がれる原因となる静電気を拡散・除去、摩擦ダメージを抑え、髪本来の艶を取り戻す手助けをします。艶のある美しい髪づくりに一役を買っているのが、特殊技術「JP CHROME-TECH®」です。
日本で開発されたこの最新の工業技術は、最新鋭のスポーツカー開発からインスピレーションを得て生まれたもの。また、実際に最高級スポーツカーにも採用されている特殊表面加工技術でもあります。
「やはり車が好きだと、自然と車に関する情報が耳に入ってきます。そのひとつに、スポーツカーの内装にも使われるコーティング技術の話があって、あれ、これってヘアケアに使えるのではと思いました。
繊細な髪にも、精密なスポーツカーにおいても静電気は大敵です。『JP CHROME-TECH®』のめっき加工は表面を非常に高い硬度まで高めて、極限までなめらかに仕上げることで、静電気を吸着・拡散しダメージを軽減させます。
日本の職人技を駆使しているので、その見た目は重厚です。でも、持ってみると想像以上に軽くて、手になじむので、皆さん驚かれます。
毎日使うものだからこそ、使えば使うほど良さがわかるものって、本当に価値があると思うんです。見た目の美しさだけじゃなくて、触れたときの感覚やフィット感。ポルシェの車内で過ごすときのように、ふとした瞬間に“良い”と感じてもらえる品質をすごく大事にしています」
ジャンルを超えて応用される発想。その根底にあるのは、下島さんのものづくりと高い品質への深い関心です。
そんな下島さんの感性をくすぐるドイツ発のジュエリーブランドの事業が、この春始動したということでお話を伺いました。
ドイツの精神を引き継いだジュエリーブランド
2026年4月から新たにドイツ発のジュエリーブランド「acredo(アクレード)」と「egf(イージーエフ)」の日本国内における販売代理店として事業を引き継ぎ、始動した下島さん。
その左手中指には、ブランドのひとつ「acredo」のリングが煌めきます。ドイツらしい金属を鍛えて成型する「鍛造」にも関わらず、丁寧にミル打ちされたプラチナと18Kイエローゴールド。その間に正確に収まる「カーボンファイバー」。鍛造による密度を高めつつ、デザインを技術で表現する様は、RRにこだわる911と共通点を感じさせます。
「事業引き継ぎ時に、耐腐食性に優れ、軽量なカーボンファイバーがジュエリーに取り入れられていると聞き、ポルシェとの親和性を感じました。
現地を訪れて改めて感じましたが、ドイツは特に、品質維持への強いこだわりをもつ職人さんが多い。現代におけるITや技術の進歩は目覚ましいのに、911がRRを続けるように、ドイツの職人さんは『これでなければ意味がない』と言わんばかりに自身の腕を誇っており、哲学さえ感じられます。その姿勢に惹かれました。
そんなドイツのクラフトマンシップは、『LOVECHROME』で大切にしてきたものづくりとも共鳴し合えるのではないかと。この出会いに、巡り合わせを感じますね」
伝統的な機能美に、時代のユニークな感性と最先端のテクノロジーを融合させる、ドイツならではのものづくり。それはポルシェがヘリテージモデル911 Spirit 70で目指したものです。
“ご縁”、“巡り合わせ”と、下島さんは繰り返し語っていましたが、限定車両を下島さんが手にできたのは、偶然ではなく必然だったのかもしれません。Taycanで手にした心の安寧と、911 Spirit 70が起こす熱風と共に、下島さんのグローバルなご活躍を祈っております。
911 Spirit 70について詳細を知りたい方は、ぜひこちらの記事も併せて御覧ください。
#LOVE PORSCHE では、今後もポルシェを愛するオーナーさまにお話を伺います。
ポルシェと出会ったときの衝撃、深まっていった想い、そして愛車とともに紡いでいく物語など。オーナーさまと愛車の間で結ばれた深い縁について迫りたいと思います。ぜひ、愛するポルシェとあなただけの物語をお聞かせください。
1975年生まれ。北海道出身。小学校3年生からバレーボールを始める。中高にて全国大会出場。高校は名門旭川実業高校。卒業後NECレッドロケッツへ入団し、8年在籍。内、全日本マネージャーを5年経験。退社後、ファッションの世界へ転職。2004年ファッション界から美容業界へ転身。2008年に独立して株式会社YC.Primarilyを設立。世田谷区三宿にリラクゼーションサロンを開業。2011年にヘアケアブランド「LOVECHROME」を立ち上げる。2018年に表参道へサロン移転。リラクゼーションと美容室を併設した「LOVE CHROME TOKYO Hair&Scalp LAB」をオープン。商品開発、ブランド作りからサロン運営に力を入れる。
Words: Yuki Kobayashi
Photographs:SHIZUKA SHERRY