HERITAGE

世界のポルシェ・パトカー
高速の守護神に

This is 911.  Fire, ambulance or POLICE? 

日本の緊急時ダイヤルは110番ですが、一部の国では『911』に電話をかけるとポルシェが駆けつけてくれる、なんてことがあるかもしれません。

しかしかつて日本の高速道路を、白黒ツートンのポルシェ・パトカーが守っていたのをご存じでしょうか。

EBI DIGITAL STUDIO 編集部は、2026年3月に東京高速道路(通称・KK線)で開催された空冷ポルシェの祭典「LUFT TOKYO」で実際にその日本のポルシェ・パトカーと邂逅しました。

そのときの感動が覚めきらず、更なる好奇心に駆られて調べてみたところ、世界各国の高速警備隊にポルシェが採用されていることがわかりました。

レースを舞台に研鑽していったポルシェの技術が、人々の安全を守るために活用される。その歴史を読み解くことで、いつもとは違った側面からポルシェを覗いてみたいと思います。

【日本】世界で唯一、旭日章が輝くポルシェ

1960年代、高度経済成長期に入った日本では、高速道路網が急速に整備されていきました。1964年8月に首都高速1号線と4号線、翌年7月に名神高速道路が開通し、1969年には東名高速が全通。さらに、いざなぎ景気と呼ばれる好況期の中、日本の自動車生産台数は世界第3位となり、国産車の性能も向上していきます。

そして高速道路で速度違反車を取り締まるために、スポーツカーモデルのパトカーの配備が始まりました。国産車では、日産自動車のフェアレディZやコスモスポーツ(現・マツダ)などが挙げられます。

同時期に、日本におけるポルシェ正規輸入代理店となったミツワ自動車は、当時登場したばかりの912を白黒カラーに架装し、専用の装備を取り付けて、高速道路の専用パトカーとして都道府県警察に寄贈したのです。

LUFT TOKYOで遭遇した、唯一現存する神奈川県警に寄贈された912。塗装はほぼ当時のままで、公道を走る際は赤色灯や横の「警察」の文字をラッピングステッカーで隠すのが条件とのことらしい。

寄贈先は、愛知県警、京都府警、神奈川県警、静岡県警。各府県警に1台ずつ納入されましたが、実はそれぞれ細かな点で仕様が異なります。

例えば、フロントエンブレムを旭日章に変更したのは神奈川県警のみ(ポルシェのエンブレムは両前輪の横にステッカーで貼付)。赤色灯(筒形回転灯)は静岡県警のみ2つ装備。サイドミラーは基本ドアにつきますが、愛知県警のみフェンダーに搭載されています。

他にも、当時らしい仕様で言えば、神奈川県警はスピーカーをリアナンバーの横につけています。これは昔、走行中の速度違反車を停めるために、違反車の前に出てから呼びかけていたためです。

4台中、現存しているのは元神奈川県警の車両のみ。こちらは1968年12月に交通機動隊に配置となって以降、24時間365日、東名高速道路を1973年までの5年間走り続けたようです。

総走行距離は15万5,943メートル。最後はエンジンが壊れてしまいましたが、県警の中でも5人の精鋭が乗車し、時速178kmで暴走した違反車両を検挙した実績があるそうです。

本来役目を終えたパトカーは解体処理されますが、貴重だったため、この神奈川県警の車両のみ「備品」として神奈川県警の警察学校のエントランスに1999年まで展示されました。その後、スクラップにされそうなところを、現在のオーナーが何度も説得して、引き取ったそうです。

まさに世界に一台しかない、日本のポルシェ・パトカー。そのレジェンダリーな912は、20年にわたる修理と、8度目の正直で手に入れた車検証をもって、2020年より公道を走れるようになったというので、そのオーナーの熱意には感服するばかりです。

スピード狂を取り締まるスピードチャンピオン

日本だけでなく、他国でも高速警備隊として活躍したポルシェ。特に本国ドイツがあるヨーロッパ近郊では、1960年代からスピードフリークたちに恐れられる存在だったようです。

【オランダ】国家警察隊のオレンジにご用心

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ドイツの隣国、オランダでは1960年代より国家警察隊(the Rijkspolitie、1993年に組織改編で地方警察と統合)の高速道路の巡回用車両として、356や911が採用されていました。

当時、オランダの高速道路はほぼ速度無制限に等しく、重大事故が急増していたため、高速パトロール用車両は急務でした。しかし、警察官が車内で立ち上がって交通整理ができるように、オープンルーフが車両の条件に入ったため、車両選びに難航していたそうです。

356, 911, 911 Targa, Rijkspolitie, police, Netherlands, Porsche AG

そこで白羽の矢が立ったのが、ポルシェ356カブリオレです。

急ブレーキなどの性能への信頼性、優れた操縦性、そしてもちろんオープンルーフのカブリオレがあったため、1962年から1966年にかけて、青ライトをピラーに搭載したオレンジと白の356が高速道路の安全を担いました。

また、1967年のタルガ発表後は、911タルガがオランダ警察の定番車両となり、1996年まで約30年間も高速パトロールカーとしての立場を維持しました。 日本で言うところのクラウンといったところでしょうか。

【オーストリア】青き閃光の如く追跡する911

ドイツを挟んで、オランダと真反対に位置するオーストリアにおいても、ポルシェは警察車両や憲兵車両として存在感を放っていました。1960年代から70年代にかけては、青色の点滅灯をつけた911を見かけるのは珍しいことではなかったようです。

なお、オーストリア警察とポルシェとのパートナーシップは、現代においても続いています。2006年には、連邦内務省が高速道路の警備用にポルシェ911を受領。2017年にもポルシェから911の無償貸与を受け、高速道路での取り締まり用の車両として運行しました。

2017年に刷新された、オーストリアでの911の警察車両。青色点滅灯や無線システムなど、警察業務に必要な装備を搭載。

そして2023年、オーストリア内務省は「TRONプロジェクト」を開始し、電気自動車が警察車両として実用に適しているかを検証しました。同プロジェクト内で、ブランド誕生75周年を記念してポルシェから無償提供された電気自動車タイカンがパトカーとして、2024年から1年間だけテスト的に他社に混じって導入されたのです。

タイカンは高速道路での追跡や巡回を任され、環境性能と高速走行性能を実証する試みでした。しかし、様々な問題により、プロジェクトは中断。残念ながら、オーストリア警察での電気自動車の実用化は白紙となりました。

【UAE ドバイ】強烈な加速力を誇る法執行車 タイカン

オーストリアと打って変わって、ドバイ警察では2024年よりタイカンがその高い性能とパトロール能力を発揮しているようです。

高級車が日常に溶け込むドバイでは、取り締まりにも相応の性能をもつパトカーが必要不可欠です。以前は918スパイダーを公務に使用していたというドバイ警察に、ドバイおよび北部首長国におけるポルシェの正規販売代理店、アル・ナブーダ・オートモービルズLLCはタイカンを寄贈しました。

この完全電気のスポーツカーに対して警察は、「スーパーカー並みの加速性能とパトカーに必要な実用性、そしてより環境に優しい未来を目指すUAEのビジョンに合致する持続可能性(充電機能)を兼ね備えている」と評価。

ただ警察の道路交通の安全と秩序の維持に貢献するだけでなく、アイコン的な存在でありながら高い環境基準をクリアする法執行車両という、新たな基準を打ち立てる存在となっているようです。

【ドイツ】アウトバーン・パトロール・カー

他国の警察を紹介してきましたが、もちろん本国ドイツでも1960年代から地方警察でポルシェが活躍してきました。ポルシェの本社所在地、シュトゥットガルトでは1963年より「ポルシェ警察グループ」なるものが存在し、356クーペ、後に911 T 2.4クーペを採用していたことが明らかになっています。

1973年、ポルシェ警察グループ結成10周年を記念して撮影されたもの。
シュトゥットガルト警察が所有していたという1972年式911 T 2.4クーペ。

また、ポルシェにとってマイルストーンとなる特別な車両が、ポルシェの本拠地であるバーデン=ヴュルテンベルク州警察に納入されています。

1966年12月21日に製造されたポルシェ史上10万台目の生産車、912タルガはクラシックな緑と白のカラーリングで架装され、青色の点滅灯のほか、基本的な警察装備を装着し、パトカーとして活躍しました。

画像は、100万台目の生産車である993。クロアチア・オシエク出身の女子プロテニス選手ドナ・ベキッチが乗り込む様子(2019年)。

現在ドイツのパトカーは、EU統一基準に基づいたブルーとシルバーのツートンカラーが主流ですが、それ以前は緑と白の組み合わせがおなじみの警察カラーでした。

このほかに1999年にラインオフした、空冷式911の最終モデルである993の100万台目の生産車も、ポルシェのパトカーとして納入されています。

各国が求めたポルシェの高速性能と耐久性

各国でパトカーとして活躍してきたポルシェ。しかしその導入背景は様々です。

多くの場合、税金で購入されたものではなく、ポルシェ本社や正規販売代理店、あるいは慈善団体からの寄贈によって導入されてきました。

一方で、トルコでは犯罪捜査で押収された高級車を警察車両として転用しているそうです。近年では、国際的な麻薬ディーラーから押収されたタイカンが実際にパトロールに投入される事例があったのだとか。

しかし、いずれの国においても共通しているのは、ポルシェの卓越した高速性能と耐久性が警察活動において確かな価値を発揮してきたという事実です。

1960年代以降、ポルシェは世界各国の警察機関と協力し、交通安全の維持や地域社会の安心を支えてきました。

高速域での安定性、長距離走行における快適性、そして軽量な車体がもたらす俊敏なハンドリングは、緊急時の対応や違反車両の追跡において大きなアドバンテージとなります。

そしてもうひとつ見逃せないのは、ポルシェが持つ“象徴性”です。憧れのポルシェが警察車両として街を駆ける姿は、単なる取締りの存在を超え、正義を体現するアイコンとして人々の記憶に残ります。とりわけ青少年には、強いインスピレーションを与えるものでしょう。

 

卓越した性能と社会的な役割、そして人々の心を動かす象徴性。そのすべてを併せ持つポルシェのパトカーは時代や国境を越えながら、“走る正義”として、これからも世界のどこかでサイレンを響かせ続けていくのでしょう。

Words:Yuki Kobayashi / Tatsuhiko Kanno
Photographs:Porsche AG

– TEAM EBI DIGITAL STUDIO –