2025年5月より、世界初のポルシェ公認レストラン 「The Momentum by Porsche」[ザ・モメンタム・バイ・ポルシェ]の料理長に、佐藤 勇樹(さとう ゆうき)が就任しました。
佐藤シェフは、山形県新庄市生まれ。地元で愛されるイタリアンを営む家で育ち、2022年に「The Momentum by Porsche」へ入店。2023年〜2024年の渡伊を経て、同店に戻り、新料理長に就任しました。
その経歴から、誰もがクラシカルなイタリアン・クイジンを想像するでしょう。しかし、テーブルを彩るのは、日本の豊かな食材とイタリアの伝統的調理法をフュージョンさせたガストロノミーです。
生まれ育った山形の伝承野菜や山菜を含む大地の恵み、日本の美しい水が育てた川魚、猟師から届く特選のジビエなど。色彩や香り、食感、そして味わい、すべてに佐藤シェフの感性が宿る一皿は、本質を知る大人たちの五感を悦ばせます。
そんな鮮やかな“裏切り”をもたらすメニューはどのようにして生まれたのでしょうか。佐藤シェフに話を伺ったところ、“エキサイティングなひとときの提供”への究極的なこだわりと、それを支えるチーム力が見えてきました。
伝統に学び、伝統を破る
まるで伝統芸能における、守破離のように。
佐藤シェフが手掛けるコースは、イタリア料理の伝統的調理法を“守り”ながらも、日本の食材と共に料理の固定概念を“破り”、そして自ら確立した食の哲学をもって“離れる”ことを選択したように感じられます。
その一皿ひとさらの多彩な表現には、「イタリアでの学びが大きく影響している」と佐藤シェフは話します。
「料理人を志したとき、漠然と“いつしか自分もイタリアへ”と思いながらも、踏み出せずにいました。卒業後は東京に出て、本場イタリアで学んだシェフの元で徹底的に基礎を叩きこまれ、料理人としての土台を築く毎日。
多くの人から渡伊を勧められる中で、やっぱり尊敬する師からの一言が決め手となりましたね。それは『本場の文化に触れることが料理人としての最大の財産となる』ということ。初めてイタリアへ行かなければいけないと、まるで自分の使命かのように感じられて、ようやく覚悟を決めました」(佐藤勇樹シェフ、以下同)
料理が生まれる背景には、その地域の風土と地域に暮らす人々の姿があります。なぜその食材を使うのか、なぜこの調理法なのか。佐藤シェフはイタリアの3つの州を渡り、本場の郷土料理と“答え合わせ”をしながら、料理人としての礎を強固にしていったのです。
しかし一方で、現地では伝統を打ち破る衝撃的なフュージョン料理にも出会ったそうです。
「伝統を重んじるイタリア人のシェフが他国の食材……それこそ日本の食材なんかも使って、フレンチやスペイン料理などの要素も取り入れ、イタリア料理のスタイルを徹底的に崩していたのです。その様子を見て、“やっていいんだ” と。
伝統の先にある表現の世界に魅せられましたし、課題でもあった“自分らしい料理”の創作への後押しとなりました。それに、日本の食材を使ったイタリアンなら、日本人である自分がつくったほうが絶対にうまい……そんな想いも抱きましたね(笑)」
一物全体でいただく
「鮎の8時間コンフィ」
日本の食材を取り入れ、イタリアンの解釈を拡張させたメニューのひとつに「鮎の8時間コンフィ」(夏季限定)があります。
水泡を想像させるガラス食器の上で、ハーブやクレソンの影から顔を覗かせる一尾の鮎。オイルで8時間、低温で煮た天然鮎は、骨も内臓もまるごと食べることができます。周りを囲む魚影は、鮎の主食である苔をイメージして添えたズッキーニのソースです。
「昨年は岐阜県長良川で獲れた天然鮎を使いました。天然鮎はキュウリウオ目に属する魚で、瓜の香りがあります。また顔つき、肉付き、そして骨格の強靭さは養殖とはまるで違うんです。
なぜなら鮎は縄張り意識の強い魚なので、激流の中で餌の苔を探しながら、自分の縄張りに入ってくる魚を撃退しています。だから顔も体も、刀のようにシャープな流線型で美しい。
そのため、ただ食すだけでなく、その力強く泳ぐ姿に想いを馳せていただきたい。自然な鮎の姿をまるごと味わっていただくために、身を崩さずに骨まで柔らかく食べられるコンフィの調理法を選択しました」
深い知見で“最高の引き立て役”を選ぶ
若き料理長を支える「The Momentum by Porsche」の面々。そのひとり、山根拓也ソムリエは、林祐司前料理長に続き、佐藤シェフが提供するコースを最大限に引き立て、感動体験を生み出すペアリングをご提案します。
お客さまの幅広いご要望に応えるため、ワインだけでも常時120~130種、計240本をストック。お酒に対する飽くなき探求心と、深い見識から日本酒、ジン、クラフトビールなど多彩なペアリングで、料理の旨みをより一層引き立てます。
「ペアリングにおいては、基本的には料理以上に派手なものは出さず、引き立て役に徹しようと意識しています。佐藤の料理は繊細な味わいなので、銘柄の著名性や味わいの華やかさよりも、より純粋に味わいを楽しめるワインをご用意しております。
コースには魚介が多いので、特に白ワインが多めですね。魚の種類に合わせて、ワインもグラデーションのように小刻みに濃度を上げていくようにしています。
もちろん、赤ワインもございます。『モンテヴェルティーネ レ・ペルゴーレ・トルテ 2019』(画像左)は、イタリア中部トスカーナ州のサンジョヴェーゼというブドウ品種を100%使ったもので、赤ワインの中でも酸味があり、フレッシュ感のあるエレガントな味わい。余韻が長いので、コースによく合います。
『リヴィエーラ・リグレ・ディ・ポネンテ ヴェルメンティーノ』(画像中央)は標高300mに位置する断崖絶壁の畑で育つブドウ品種で、土が海風が運んだ塩を養分としているので、塩味があり、爽やかなハーブの香りがする白ワインです。フレッシュな魚、山菜、豆でもいけるので、重宝しています」(山根拓也)
自然を敬い、
食材の旨みを最大限引き出す
ポルシェにしかつくることができないスポーツカーがあるように、佐藤勇樹にしか成立できない一皿をつくりたい。
帰国後、佐藤シェフは自らのスタイルを確立させるために、あらためて食材に焦点を当てました。そして今、厨房には、故郷である山形県を軸に全国の生産者や漁師、猟師たちから自然の恵みが届きます。
「山、川、海、自然が豊富な地域で育ってきた自分だからこそ、食材の“美味くする扱い方”を知っている。その知識が自分の表現の核になると思ったんです。
だからこそ食材を扱ううえで、旬の味わい、食感、そして日本の食文化であるUmami(うま味)を最大限に引き出すために、バターやオイル、調味料を最小限に留めています」
「また、養殖ではなく、自然から命を頂いているので、山菜、野鳥獣、魚でも、形や大きさは不揃いですし、個体差もあります。それは過酷な自然環境の中を生き抜いてきた証であり、僕はそれこそが美しいと感じています。そのため、一皿には食材がかつて生きていた頃の様子、また、自然の造形美を表現しています。
その一皿から自然と季節の移ろいを感じていただけたら……。そんな想いをもって、コースに仕立てています」(佐藤勇樹シェフ、以下同)
佐藤シェフの言葉の端々に滲み出る、同じ地球で生を受けた食材たちへのリスペクト。その背景にあるのは、幼い頃から祖母との山菜採り、友人たちとの釣りや山遊びを通して自然に触れ、その恩恵を受けてきた原体験です。
そして豊かな食材は、彼の好奇心をどこまでも刺激するようです。厨房に届いた食材を前に目を輝かせる姿は、休日に愛車を繰ってどこまでも走り続けるポルシェ・ドライバーの姿と重なります。
「僕にとって、食材と対面しているときがいちばん幸せで、エキサイティングな時間。どう美味しく活かすか、どうやったら造形をより美しく魅せられるかなど、悩む時間が愛おしいんです。エンジンがかかったら、なかなか思考が止まらず……どこまでも駆け抜けていきます(笑)」
その最たるものが、「The Momentum by Porsche」のコースに新たに加わったジビエ料理です。日本の狩猟期間はたった3か月間と短く貴重なため、各地域で獲れた野生の鳥獣肉はシェフ自らの手で下処理を行われます。
「下処理をしながら、ソースや調理法を考えていきます。鴨であれば喉や胃の中のものを見ると、直前まで鴨がどのような生活をしていたのかがわかります。木の実があれば、合わせるソースにナッツなどを加えてみる。そんな風に、生きているときの姿を想像して加味していくと、味わいに調和が生まれます」
自然の造形を一皿に
「鹿のロースト ジュニパーベリーのソース」
佐藤シェフがジビエに目覚めたきっかけとなった鹿肉。ジビエの中でも通年で提供できる「鹿のロースト ジュニパーベリーのソース」は、渾身の一皿と言えるでしょう。葉を敷き、キノコや緑を添えて、鹿が山の中を歩く情景を表現した盛り付けからは、生を謳歌した鹿の姿が想起されます。
「肉肉しい赤身は、焼き上げると肉汁のほかに血の香りが立ち上がり、噛みしめたときに野性味と共に力強い旨みを堪能できます。通年で提供していますが、季節によって味わいが変化しますね。
特におすすめは、夏の鹿です。新緑の時期に、新芽や山菜などを食べている夏鹿は脂身が少なく、栄養をしっかり取り込んだ肉はみずみずしさが際立ちます」
佐藤シェフの食材の“活かし方”は、食材が持って生まれた価値を再認識させてくれるようです。一皿を前にした人々は“食べる悦び”だけでなく、“生きる悦び”まで満たされるでしょう。
奥行きのある余韻を残す、至極の結び
もうひとり、至極のときをつくりだすメンバーがいます。壮大な物語を孕んだコースを締めくくるドルチェを、佐藤シェフから一任された、都丸里佳子パティシエです。
長年ブライダルパティシエとして磨き上げた技術力は、繊細な味わいのレイヤードと見た者を歓喜させる美しい仕立てに顕れ、大輪を咲かせています。
「パティシエにしかできない素材を使って表現をしてほしいと、佐藤シェフから強いリクエストがありました。コースで素材の旨みを存分に堪能した後は、爽やかな余韻を残すべく季節の果物を積極的に使い、軽やかに仕上げるよう意識しています。レストランでしか味わえない、ドルチェ・アル・ピアットならではの瞬間的な美味しさをぜひご堪能ください」(都丸パティシエ)
季節のドルチェのひとつ「ビアグミー」はホワイトチョコレートのムースと伊予柑を掛け合わせ、意外性のある求肥で包み込んだ一皿。プラリネアイス、マンダリンソース、そしてジンジャーパウダーを混ぜたクランブルを組み合わせ、甘み、酸味、苦味、そして辛みが舌の上で軽やかに優雅に踊り、溶け合います。
さらに、お土産にプティフールやアイシングクッキー、季節の贈り物にケーキクリスマスケーキやバレンタインギフトをご提供するなど、都丸パティシエはその手腕を奮い、「The Momentum by Porsche」の新たな魅力を築き上げています。
佐藤シェフを中心とした若き精鋭たちが担う、新生「The Momentum by Porsche」。それは常に好奇心を抱き、熱狂をもって挑戦し続けた黎明期のポルシェと重なります。
いつでもそこには「本物を追求し、多くの人々の感動を呼び、魅了し続ける」ものづくりの哲学を根底とした、プロフェッショナルな技があります。
「The Momentum by Porsche」のコースは、もはやクラシカルなイタリアンのそれではありません。イタリアの伝統に学び、打ち破り、そして独自の軸を据えて歩みだしたガストロノミーです。
まさにその姿は、クルマやスポーツカーという概念を自らの手で打ち破り続けてきたポルシェ自身にも通じると、今回の取材を通じて強く感じました。
訪れたお客さま一人ひとりを魅了するために、彼らは余念がありません。常に仲間の挑戦する姿を目の端に捉えながら、調整し、調和し、進化し続けていくのです。
“本物”を追求するポルシェの哲学と、ガストロノミアを驚嘆させるようなエキサイティングな瞬間を、ぜひ心ゆくまでお楽しみください。
山形県新庄市生まれ。
地元で愛されるイタリアンを営む家に生まれ、幼い時からキッチンで食材を見たり触ったりするのが好きだったという生粋のイタリア料理人。
2023年にイタリアに渡り、ヴェネトの山岳地帯、プーリアの海沿い、ピエモンテの仏国境近く、などミシュラン星付き店で地域色豊かな食文化を習得。
帰国後は地元山形のまだ知られていない食材、日本の美しい水が育てた川魚、信頼のおける猟師からのジビエなど、コネクションを活かし調達。
料理は枠にとらわれることなく、常に最適なパフォーマンスでお客様に届けることをモットーとしている。
■ 店舗詳細
The Momentum by Porsche
ザ・モメンタム・バイ・ポルシェ
porsche.tokyo/
〒105-7101
東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター1F
ポルシェスタジオ銀座隣 接
TEL. 03-6280-6785
LUNCH 11:30 – 14:30 (13:00L.O.)
DINNER 18:00 – 22:00 (20:00L.O.)
※+10%サービス料
BAR LOUNGE 18:00 – 22:00 (21:00L.O.)
※あたたかいお料理は20:00L.O.
定休日:日曜日・月曜日、不定休あり
Words:Yuki Kobayashi
Photographs:SHIZUKA SHERRY / Kentaro Kumon / Shoya Kubota