マカン エレクトリックやタイカンが牽引する電動モーターの静謐な世界と、911が魅せるエンジンの燃えるような魂。
どちらがよりライフスタイルに合っているか比較検討するために、EBIグループのポルシェスタジオ銀座では比較試乗プランをご提供しています。今回は、そのプランの中で車好きのお客さまにこそ、今最も選ばれている“第3の選択肢”をクローズアップしたいと思います。
それは“ハイブリッド”。
ポルシェのハイブリッドモデルを購入された方に聞く限り、その多くは経済的、環境的な理由からハイブリッドを選んでいるケースは少ないようです。刮目すべき技術的進化を遂げたハイブリッドならではのドライビング・パフォーマンスと実用性の両立、そして、その最先端レーシングテクノロジーのイメージなどが、決断の最大の要因となっている印象を強く受けます。
そこで今回、EBI DIGITAL STUDIO では、ポルシェのハイブリッドモデルの魅力をあらためて詳細にお伝えしたいと考え、ヒストリー、試乗レビューと前後編に分けて、深く掘り下げてまいります。
世界初のハイブリッド車を生んだポルシェ
ハイブリッドにおいてまず語るべきは、何といってもポルシェ自身の歴史と非常に縁深い点です。
創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が世界で初めて、走行可能なフルハイブリッド車、ローナー・ポルシェ Semper Vivusを発表したのは、1901年。
車体中央の2台の水冷エンジンを発電機につなげ、その出力でハブモーターを駆動し余剰電力をバッテリーに充電するという、この時点で完璧なシリーズ方式としてこのハイブリッド車は開発されました。(現在のポルシェは主にパラレル方式)
後の市販用ハイブリッド車、ローナー・ポルシェ Mixteは最終的に約300台生産され、個人用だけでなく、ウィーンの消防署には40台も納入、一部はタクシーとして使用されたそうです。しかし大量生産には向かず、ホイールハブモーターはすぐに廃れて、他のコンセプトに取って代わられました。
驚くべきはその後です。ポルシェ博士の研究のおかげで、1970年代初頭、NASAが開発したアポロ計画15号、16号、17号の月面探査車は、電動ホイールハブモーターで駆動したのです。
人類史上初めて地球外を走行した自動車は、ポルシェが設計(製造はボーイング社)した月面探査車だったというわけです。
70年以上経過してからの採用に、ポルシェ博士の所業がいかに“先駆的”だったかがわかりますね。
ハイブリッドの夜明け
Semper Vivusが生まれて約100年後、ようやく世界が電気駆動システムに注目を始め、ハイブリッドのアイディアは本格的に進化を始めました。その背景には、車に適したリチウムイオン電池の開発や、汚染物質や二酸化炭素の排出に厳しくなっていったヨーロッパでの法的要件が挙げられます。
ポルシェでは2010年にカイエンSハイブリッドを発表し、電動モビリティの道を切り開きました。当初、エンジンとシャシー構成は独自で開発したものの、プラットフォームはフォルクスワーゲン・トゥアレグと同じ型を共有したものでした。
さらに翌年、高級車クラス初のパラレルフルハイブリッドであるパナメーラSハイブリッドを発表し、ポルシェは“ハイブリッド”の道をさらに拡張します。
しかし、2010年当初、衆目を集めたのはこれらの2つの市販車ではなく、センセーショナルに登場した“スーパー”ハイブリッドカーでした。この2010年代に登場した3台のスーパーハイブリッドカーたちは世界各国のレースを席巻し、ハイブリッドのイメージを塗り替え、ポルシェ史に輝かしい“転換点”を刻んだのです。
ブレーキで勝利する911 GT3 Rハイブリッド(2010年式)
2010年に登場した911 GT3 Rハイブリッドは、“前輪をモーターで駆動させる”というローナー・ポルシェ Mixteの駆動コンセプトに回帰。インホイールモーターではないものの、前輪の車軸上に82hpを発揮する2基の電気モーターが組み込まれ、リアに480hpの水平対向6気筒エンジンを搭載しました。
100年前と最も異なる点は、エネルギー回生方法です。新システムによって、ブレーキング時に従来廃棄されていた運動エネルギーを再利用できるようになり、レース中のブレーキングが、減速や荷重コントロール以外の役割を初めて持ったのです。
この画期的な技術によって、レース中のパフォーマンスと燃費を向上させ、戦略面でも優位性をもたらし、モータースポーツの歴史に新たな一章を刻みました。
公道を走るスーパースポーツカー 918スパイダー
同年、ジュネーブ国際モーターショーで発表されたのはポルシェ初の公道を走れるハイブリッド・スーパースポーツカー、918スパイダー。ル・マンでの初優勝や、あらゆるレースシーンでの猛撃が記憶に残るレーシングマシン917の系譜にあり、市販モデルは2013年から918台限定で生産されました。
2つの電気モーターを組み合わせた4.6リッター8気筒エンジンは、停止状態から時速100kmまでわずか2.6秒で加速し、最高速度は時速345kmに達します。世界最難関のサーキットの一つであるニュルブルクリンクの北コースをわずか6分57秒/1ラップでフィニッシュするなど、まさに息を呑むようなパフォーマンスを実現しました。
発売当時、EBIグループの新車拠点でもごく少数台数を取り扱いしました。日本の公道を走る一般車の中において、明らかに異質なボディ造形が、周囲に圧倒的なオーラを放っていたのが鮮烈な記憶として残っています。
加速が更なるパワーを生む 919ハイブリッド
2014年に世界耐久選手権(WEC)のトップクラスに躍り出て、2015年〜2017年にはポルシェ史上初となるル・マン3連勝を成し遂げた919ハイブリッド。システム出力900馬力(662kW)以上を誇るマシンは、ポルシェ史上最速かつ、最も革新的なレーシングカーと言われています。
その革新性は、2つの異なるエネルギー回生システムにあります。
911 GT3 Rハイブリッド由来のブレーキング時における運動エネルギー回収に加え、排気ガスから電力を生むMGU-H(モータージェネレーターユニットヒート)を搭載したことで、加速時におけるエネルギー回生をも実現したのです。2015年と2016年のル・マン24時間レースで回収した電力は、なんと一般家庭の消費電力3か月分に相当するとのこと。
この919ハイブリッドに採用されたコンポーネントやコンセプトは、パナメーラ ターボS E-ハイブリッドなどの市販車にも応用されました。
F1から市販車へ
ハイブリッドが大本命の時代に
ポルシェにおけるハイブリッドの歴史と進化を紐解いていくと、これまで日本のマーケットで繰り返し唱えられてきた、“経済的、環境に良い”といった文脈とはまったく異なることに気付くでしょう。
もちろん、近年のハイブリッドの急速な進化は、人類が直面する環境問題を発端としています。その問題へのポルシェの回答は、過去に自らが行なってきたことと何ら変わることなく、極限のレースの舞台で技術を進化させ続けることでした。
結果的に、その選択は、車そのもののドライビングパフォーマンスを、内燃機関だけでは実現できない領域まで一気に昇華させました。やがて、ついには世界最高峰のカーレースもハイブリッドの実力を認め、採用することとなりました。
2014年よりF1(フォーミュラ1)では1.6L V6ハイブリッドターボエンジン(パワーユニット)をレギュレーション化し、純粋なエンジン(ICE)だけでは到達しえないレーシングスピードとパワーの新時代を拓いたのです。
各社の技術力と超高速アクションを魅せる大一番であるF1。モータースポーツの頂点であるグランプリにおいては、妥協なき“最速の追求”のみが問われます。
そんな舞台で、ハイブリッドの底力を見せつけるかのように、2016年シーズン、当時バルテリ・ボッタス選手はアゼルバイジャンGPの予選で時速378kmというF1における世界最速記録を出しました(予選のため、非公式記録)。
そして今年、2026年には新レギュレーションの制定により、電動モーターの出力率が引き上げられ、ICE(内燃機関)と電気モーターの出力比率が8:2から、5:5へと変更。この電動モーター出力の引き上げによってトルクが飛躍的に増加し、コースによっては最高時速が400kmに迫る可能性も出てきています。
このように世界最高峰のレースで、今も研鑽され続けているハイブリッドの技術。
現在、ポルシェは勝負の舞台をFormula-Eに移しましたが、創業してからこれまで、ル・マンやF1を含む数々のレースで培ってきた技術は、カイエンやパナメーラのような公道を走る市販車へと次々に移されています。
それゆえに、ポルシェが実現する至高のドライビングエモーションを求める方こそ、ハイブリッドを“大本命”として選択する時代に突入しているのです。
この記事を読まれてハイブリッドに興味を持たれた方は、ポルシェスタジオ銀座まで、ぜひお気軽にお問い合わせください。PORSCHE PROがポルシェのハイブリッドについて、あらゆるご相談にお応えします。
次回の〈後編|試乗レビュー〉では、第3世代となったカイエン、パナメーラの最新ハイブリッドモデルの走りをレビューしていきますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
Words:Yuki Kobayashi / Tatsuhiko Kanno
Photographs:Porsche AG