2026年9月より日本でもいよいよ納車がスタートした「カイエン エレクトリック」。EBIグループ各店でも試乗受付を順次開始し、電動カイエンのドライブ・フィールを堪能いただけるようになっております。
現行モデルシリーズとして、911、ボクスターに続く、この第三のポルシェは2002年の初登場以来、ラグジュアリーSUVの草分け的存在として圧倒的な存在感を放ってきました。ハイブリッド車のモデル追加でセンセーションを巻き起こしたのももう15年以上も前。そして今年、唯一無二のフル電動プレミアムSUVとして新たな境地に達しようとしています。
EBIデジタルスタジオではカイエン エレクトリックの発売を祝して、#1|ヒストリー編、#2|エクステリア/インテリア編、 #3|試乗レビュー編、と3回に分けて、カイエンを深く掘り下げてまいります。
本記事では、カイエンの初登場時からこれまでのストーリーを追いかけ、改めてポルシェにおけるカイエンという存在を見極めたいと思います。
ポルシェの救世主的存在
カイエンが生まれたビジネス的な背景は、より多くのポルシェをマーケットへ届け、1990年代から続く経営的な苦境を乗り越えるためでした。
1992年度に2億4000万ドイツマルク(約192億円〜216億円相当)という巨額の赤字を抱えたポルシェは、水冷フラット6を搭載した911、そしてミッドシップエンジンの新型ボクスターをリリースして起死回生を狙います。
しかし、「それでは限界がある」。
当時会長に就任したばかりのヴェンデリン・ヴィーデキングはそう判断し、最大市場でもある北米に目を向けます。当時SUVとミニバン市場に急成長が見られたためです。そして“あらゆる所得層で好評だった”大型SUVに狙いを定めました。開発当初は、“メルセデスの高性能派生モデル”として構想されていたポルシェのSUV。
しかし1996年末には考え方の違いから決裂し、ポルシェはフォルクスワーゲンと新たにパートナーシップを結びます。当時はまだ同じグループに属していませんでしたが、フォルクスワーゲンの取締役会長が、ポルシェ博士の孫であるフェルディナント・ピエヒであったことも運命的でした。
また、カイエンの裏話にはこんなものがあります。
1989年の時点で既にフェリー・ポルシェが、「ポルシェの品質基準を満たしたオフロード車を作れば、それは売れるだろう」と発言していたというのです。
ポルシェが提示したSUVに将来性を見出し、パートナー提携を決断したことに、VWピエヒ会長に流れるポルシェの血を感じられますね。
1998年、共同プロジェクト「コロラド」の一環として、ポルシェのプラットフォームをベースとしたカイエンとトゥアレグの共同設計がいよいよスタートします。ドアなどの同一の部品があり、内装も非常に似ていましたが、搭載したエンジンや、シャシーのチューニングには各社の個性と技術が注がれました。
当時の開発陣がかけた熱意を推しはかれるエピソードがあります。
「スポーティな多目的車」に何が必要なのか、エンジニアが身をもって体験するために、全部門長にこんなお達しがあったというのです。「スポーツカーであるポルシェの社用車を返却して、代わりに他社で販売しているSUVを購入するように」と。
社内では不満の声が上がりましたが、BMW・X5、フォード・エクスプローラー、ジープ・グランドチェロキー、メルセデス・ベンツ・Mクラスなど、各部門長は4週間ごとに車を交換し合い、公私ともに真剣にSUVと向き合いました。その結果、これまでポルシェでは注目されてこなかった収納スペース、キャビンの高さ、より広い後部座席などに、しっかりと開発の目が向くようになったそうです。
各部門長のこういった陰ながらの努力と静かなる熱意が、時代を切り拓く革新的な車を生み出したのでしょう。
カイエンの快進撃
構想から4年。2002年9月に、初代カイエンはポルシェ初のSUVとして、パリモーターショーのワールドプレミアで発表されました。
1990年代当時のプレミアムブランドの主力商品かつフラッグシップにあたる車は、セダンタイプが主流でした。またSUVといえば、オフロードをルーツに持つ頑強な車という時代。
スポーツカーブランドとして地位を確立し、コンパクトスポーツカーしか扱ってこなかったポルシェが、まったく未知のセグメントに参入すること自体、センセーショナルでした。にもかかわらず、ポルシェは、さらに“走り”を主軸に置いた”スポーティー”なSUVを製造し、新たなセグメントを創り出してしまったのです。
そしてポルシェは見事にカイエンを大ヒットさせます。
初代カイエンの販売数は、目標であった当初の年間販売目標2万5,000台を大幅に上回り、8年間で約27万6,000台を販売し、ポルシェの世界販売台数のかなりの割合を占めるようになりました。
カイエンの登場によって、図らずとも人々の中にSUV=高級車というイメージが根付いていったのは間違いありません。遂には各社がカイエンの影を追うように、車業界においてSUVを“プレミアムライン”として開発する潮流が生まれ、カイエンの“刺激”は世界を虜にしていきました。
ラグジュアリーSUVが切り開いた革新的な走り
カイエンが日本で発売されたときを振り返ってみましょう。
IT革命の熱気を背景に、東京の街が新たな華やかさをまとい始めていた2000年代初頭。それまで都心を我が物顔で走るのは、車高が低いスーパーカーやラグジュアリーセダンでした。しかし、カイエンの登場によってその価値観が一変します。
公道を見下ろすように走る巨大なカイエン ターボは、モンスターマシンのような圧倒的な存在感で、道行く人々を振り返らせていました。2000年代初頭、カイエンの波は東京をも襲い、プレミアムカーのスタンダードを変えていったのです。
そして、それはただ単に見た目だけではなく、走りにおいても衝撃的だったことを覚えています。当時SUVの走りはとても鈍重で、走りを楽しめるクルマなど文字通り皆無でした。
それが、カイエンターボに乗った瞬間に、溢れ出るエンジンパワー、それを余裕で受け止める頑強なシャーシ、異常に速いコーナリングスピードなど、あまりのパファーマンスの凄さに言葉が出ず、思わず笑いが込み上げてしまうファーストインプレッションだったのが、鮮烈に記憶に刻まれています。
地を這うような車高の軽量スーパースポーツカーと遜色ない走りを、倍ほどある車重のSUVで見せつけられたのでした。それは本当に、今までのクルマの常識を覆すような衝撃的な体験でした。
また、SUVに欠かせないオフロード性能についても、ポルシェはきちんと突き詰めていたことに驚きました。カイエンがデビューした2002年、132ヘクタールものオフロード地形をライプツィヒ工場に設けてオフロード性能の進化に役立てていました。
そこには合計15のテストモジュールを備えた6kmのサーキット、長さ100メートル・深さ0.5メートルの水渡りと、勾配80パーセントのエクストリームランプが含まれます。もちろん、カイエンの走行テストは全てそこで行われていました。
このようにカイエンは、ポルシェらしいスポーツカーとしてのパフォーマンスだけでなく、日常の運転における優れた快適性、オフロード走行における確実な走行能力といった、幅広く、そして高い品質を我々に提供してくれたのでした。
ポルシェを多様にしたポルシェ
ポルシェがSUVを開発・販売したことで、起きた革命がもう一つあります。それは、人々の“ポルシェへの意識”が多様になったことです。
それまではポルシェといえばコンパクトスポーツカーであり、一人ないし二人でドライブ・フィールを存分に楽しむことがオーナーの夢であり、人生でした。
しかし、SUVで重視されるのは“多目的性”。一人だけでなく複数の同乗者、友人や家族が喜んで乗る車となることが何よりも重要です。つまり、ドライバー個人だけでなく、家族でポルシェの時間を過ごし、そのエモーショナルな体験を共有できる使い方が生まれたことを意味します。
ポルシェはカイエンを生み出したことで、ポルシェのブランド力をより多様にし、幅広く、豊かなものにしたと言えます。
そして高級 SUV セグメントのパイオニアであるカイエンは、プレミアムブランド各社にとってベンチマークとなりました。やがてプレミアムブランドのSUV競争が激化する中、ポルシェは今度はハイブリッド技術をもってまたもや先陣を切ったのです。
ハイブリッドSUVの先駆け
2010年、カイエンの第2世代が登場します。このときに登場した、ポルシェ初の量産ハイブリッド車であるカイエンSハイブリッドは、今に続く電動化戦略の基礎を築いた存在だと言えるでしょう。
パフォーマンス、ラグジュアリー、実用性、さらにサステナビリティまでもひとつのパッケージに組み込んだカイエン第2世代は、“効率性”が大きなテーマとなっています。
例えばフォルクスワーゲンのトゥアレグと同一のプラットフォームは継続ですが、初代カイエンをオフロード車に仕上げたローレンジギアボックスやトランスファーケースを廃止して、減量に寄与しています。
初代は“ポルシェのSUV”というインパクトが大きく、良くも悪くも実験的要素がありました。一方、第2世代ではポルシェというブランドイメージに丁寧に回帰した印象です。軽量化が徹底され、初代よりもボディ重量は100kg以上も軽くなり、コンパクトスポーツカーを意識させる、現在へ通ずる流線形のデザインへと変わりました。
このように初代、第2世代とカイエンがSUVというセグメントで連続的な大成功を収めたからこそ、パナメーラが生まれ、さらにはマカン、そしてタイカンへと4ドア・ポルシェの系譜が受け継がれていったのです。
最新のハイブリッドモデルのその確かな走行性能についての詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
ドライバーの情熱を呼び起こす
カイエンクーペというスピンオフ
直近までカイエンの人気を支えてきた第3世代では、最先端のドライバー アシスタンス システム、プラグイン ハイブリッド パワートレインといったさらなるデジタル化が進んでいます。
中でもインパクトを与えたニュースといえば、2019年にカイエン クーペがラインナップに加わったことでしょう。SUVクーペ市場は目新しいものではありませんでしたが、ポルシェならではのデザインDNAを通して、この車に独自の個性を与えることに成功しました。
アダプティブリアスポイラー、軽量のカーボンルーフ(オプション)、22インチのGTデザインホイール。そしてインテリアでも、リアシートは2つ独立したように特徴づけるなど、どこを切り取ってもスポーティーです。
そして極めつけ、後方に向かって流れる911を再現するかのようなフライラインはよりダイナミックに魅せ、セグメント内で最もスポーティなモデルとして君臨しました。
ポルシェブランドならではのスポーティで、ダイナミックなボディ形状は、ブランドのアイデンティティを誇示するというよりも、ドライバーの心に眠る走りのDNAを呼び覚ますためのものです。
カイエン クーペやカイエン ターボ GT などのバリエーションは、スリリングなパフォーマンスを求めるドライバーに贈る、日常的な使いやすさとプレミアムスポーツカーの魅力を両立させる新たな選択肢となったのです。
新カイエンが魅せる
未来のラグジュアリースタンダード
公共交通機関の網目が張り巡らされ、サブスクリプションの細やかなカーサービスが数多くある今、車を購入することは、もはや娯楽と言えるでしょう。そして世界的な物価高の今、ポルシェを購入すること自体は、いわば極上の贅沢です。
しかしその「極上の贅沢」の中身は、一体なんなのでしょうか。
もはや、高価格を担保する“高品質”は至極当然のこと。実用性だけでなく、サステナビリティを求める現代では、環境や社会、道徳を意識した選択肢は“前提条件”にあります。
では私たちは、何に対して極上の価値を求めるのか。
それは、自分の心や価値観を揺さぶるような“唯一無二”のストーリーと言えるのではないでしょうか?
カイエンはセンセーショナルなデビューからこれまで、プレミアムブランドのSUV、ハイブリッドSUV、最もスポーツカーに近いSUVとして唯一無二の存在感を示してきました。カイエンが車業界に与えた影響は、いくら強調しても足りません。そしてさらに、第4世代となるカイエン エレクトリックは、新たなる無限のストーリーを重ねようとしています。
EUによるガソリン車の新車販売禁止目標の撤廃によって各社が回れ右とする中で、ポルシェの車造りに関しては世の流れに飲み込まれずに、満を持して完全電動のSUVを改めて発表しました。
つまり、今度は“BEVのSUV”という新たなセグメントを、プレミアムブランドの領域に築き上げたのです。これからまた各社がカイエンの影を追って、我先に続こうとBEVのSUV開発に躍起になることは間違いありません。
しかしカイエン エレクトリックは常に先の未来を往きます。そのレース仕込みの最高出力1,156PS、0-100km/h加速2.5秒という、ポルシェの市販車として史上最高のパフォーマンスをもって、パワフルに時代を切り拓いていくことでしょう。
この記事を読まれて、カイエン エレクトリックに興味を持たれた方は、ポルシェスタジオ銀座まで、ぜひお気軽にお問い合わせください。EVスペシャリストのPORSCHE PROが多数在籍していますので、ポルシェのBEVについてのあらゆるご相談が可能です。
次回の #2|エクステリア/インテリア編では、いよいよカイエン エレクトリックの実車をポルシェスタジオ銀座で撮り下ろし、ディテールを深掘りしていきますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
今日は9月11日。
A Tribute to 911.
To the one and only 911.
And to everyone who shares the passion…
唯一無二のレジェンド「911」と、このクルマを愛するすべての人へ、敬意を込めて…
There is no substitute.
— September 11, 2026
Words:Yuki Kobayashi / Tatsuhiko Kanno
Photographs:Porsche AG